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彼に清められるたび、頭が少しずつクリアになってゆくようだった。
「君の髪は絹糸のように真直ぐで柔らかいのに芯が強くて決して絡まない」
すっかり泡を流し終えてしまうと次はトリートメントを手に取り九条さんは言った。
「まるで君自身のようだね」
「僕?」
甘い香りに包まれ心地よく髪を撫でられながら僕は逆さに九条さんを見つめた。
「僕は弱いよ。それにすぐ人に絡む」
どんな角度から見てもパーフェクトなこの人が、僕のために膝をつきシャツを濡らして尽くしてくれる。
「特にあなたに――」
気分が良かった。
我慢できなくて彼の頬に腕を伸ばす。
「トリートメントの途中だ」
抵抗もなく頬に触れさせたまま、九条敬は美容師の仕事を続ける。
「5分はこのまま置かなくちゃ――」
焦らされているのか。
「すぐに洗い流したって一定の効果はあるさ」
今度は僕が喉を鳴らす番だった。
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