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「愛してほしんだ……あなたにはただ……」
自分でも思いもしなかった言葉が零れ出た。
「僕を愛してほしいんだ。思い切り脇目もふらず、ただただ僕を愛してよ」
濡れた瞳は九条敬を射竦める。
彼の頬は驚愕したかのように引き攣って、僕の指先に微かな振動として伝わる。
「君は自分がどれだけ我儘を言っているのか分かってるのか?」
「うん……そう……?」
「君は僕だけを愛してくれはしないのに、僕からは今以上に欲しがるなんて」
皮肉めいた口ぶりがこんなに似合わない人もいない。
「今だって僕は自分でも信じられないくらいに君を愛してる」
天使の指が僕の髪を梳く。
「君のことを思う度、胸を痛めとても苦しい」
5分を待たずして九条さんは僕から目をそらしシャワーを手に取った。
湯気で視界が曇る。
でも僕にははっきりと見えた。
「だけど同時にこの上なく愛しくて僕は幸福だ」
滑らかな頬を伝う一筋の美しい涙が――。
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