33人が本棚に入れています
本棚に追加
九条さんはそっと僕の頬に手を添える。
その指は微かに震えているが、何を我慢しているのか馬鹿な僕には分からない。
「お願い……そんな目で僕を見ないで」
だから乞うばかりだ。
「僕を抱いて?どんなやり方でも構わないから……あなたの思い通りにしてほしい。怒りをぶつけてもいいよ、浮気者のだと罵っても構わないから……」
泣くのは狡い。
それも一筋そっと流す涙は狡い。
だから僕の身体は自然反応的に、まるでタイミングを見計らったようにそうなる。
それが幼い頃から、僕が身につけた生存本能だとでもいうように。
九条さんは狡いとは言わない。
代わりに指先で僕の涙を掬って
「真珠……」
少年のようなつぶらな瞳でそれを見つめ。
「何があっても君のこと泣かせるつもりはない。ごめんね――大丈夫、今もちゃんと君を愛してると言ったら許してくれるかい?」
その手で僕の頭を撫でた。
幼子をあやすように――何度も何度も柔らかく。
最初のコメントを投稿しよう!