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「許す……?僕があなたを許すって……?」
そんな権利はないって誰にだって分かるはずだ。
ああ、そう九条敬以外には――。
「僕が君を置いて逃げたのは君に怒りを感じたからでも、君を諦めたからでもない。ただ自分が――」
九条さんは脱力したように僕の隣にごろりと横になる。
途端に彼の顔からは毒気が抜け、絵に描いた天使のようになった。
「彼に――征司君に自分の身体の一部を移植してから醜い考えを抱くようになったから」
わずかばかり癖のある栗毛が美しい螺旋を描くように痩せた頬を包む。
「醜い考えって?」
僕は彼の方に体ごと向き直り互いに向かい合う形で横になる。
ほんの少しずつ距離は縮まり、彼の腕がようやく僕の身体を抱きすくめるように伸びた。
「ねえ教えて、あなたの抱く醜い考えってなあに?」
僕はそれがただ嬉しくて自分から体を摺り寄せた。
九条さんはいまだに僕が全身を預けると――たまにだけれど――頬を紅潮させる。
出会ったばかりの頃のように。
口づけさえまだしたことがないかのように。
今がその時だった。
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