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epsode247
すぐに天地はひっくり返った。
彼の唇を求める僕をひょいと抱き上げると、彼が僕をベッドに押し倒したからさ。
だけど僕が求める口づけは遠慮がちに額に落とされた。
とても優しく前髪をかき分けるようにして1度――2度。
その仕草ひとつとっても彼の愛が変わらずここにあることは分かった。
しかしそう簡単に事が進まないことも僕はそこで悟った。
色仕掛けや泣き落としなんてものもはや通じない。
僕らの間にはもっと深い――足を取られたら身動きできなくなりそうな。
そんな真実の沼があったから。
表面から見たらその沼の水はとても美しく澄んでいるんだ。
笑い声を上げながら僕らは手を繋ぎ共に水面に足先を付ける。
水の温度は生暖かく心地よい。
やがて膝まで水に浸かる。
ほんの少し水面が濁って足元が見えなくなる。
その頃にはすでに足底はずぶずぶとぬるい泥の中に沈んでいる。
気づけば腰まで。
やがて胸元まで。
そこでやっと気づく。
逃れようともがくほど足を取られて沈む。
そんな中で僕らは互いを繋ぎとめようと両手を固く握りあう。
やがて水は肩先まできて、動くたび僕らの髪の先を、頬を濡らす。
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