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それはけっして僕を責めることのない自問自答。
だから余計に居たたまれない気持ちになってくる。
「愛に苦しみはつきもの……この年になれば誰しも分かることだけどね、和樹。僕はその苦しみさえどんな物だったか分からなくなるほど君に狂ってしまった」
黄色い花弁が彼の指先からまるで妖精の粉のように散った。
「だからあるいは僕が君から逃げ出す時……それは往々にして正気を取り戻した時なのかもしれない」
自嘲気な笑みと裏腹。
何かを堪えるように彼は口元を抑える。
「ひとまずシャワーを浴びてくれないか?君を包むすべてを僕と同じ香りにしてしまいたい」
「分かった。何でもあなたの言うことを聞く」
僕は素直に頷き立ち上がる。
と――あるものが目に入った。
「あなたがもし僕の身体についた痕を全部削ぎ落せと言うならそうする」
「和樹……」
磨き上げられた果物ナイフだった。
「おいっ……!」
愛する人の美しい目が見開かれ。
黄色い薔薇からはだけたシャツの胸元に刃を当てる僕に向けられる。
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