暗渠血海

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 舟蟲は、並んだ男女をつぶさに観察していく。人を観察するのは職業癖でもあるが、一人一人の人相を記憶にとどめておけば、不慮の事件事故が勃発した際に役にたつ。 「じゃあ、ツアーを始める前に自己紹介をしてくれ。学校名と名前と年齢だけでいい。動機とか質問とか、そんなのは要らないから。君らも肝試したくてうずうずしてるだろうからな。だがこれも万が一のためだ」  舟蟲は腕組をしてみんなの前に立った。万が一という言葉に、彼らは敏感だった。すぐに仲間同士で顔を見合わせ、納得した様子で簡潔にプロフを述べていった。  リーダー格は遠沢拳也、大学一年生。長身で頭の切れそうな顔立ちをしている。ジーンズにチェック柄のシャツの上にオリーブオリーブ色のサマーカーディガンを羽織っている。  二番目の男は肝試しにおよそふさわしくない格好をしていた。就活スタイルである。紺色のスーツをびしっときめ、革靴はピカピカに磨き上げられている。頭髪も面接用に刈られていた。 「大学生活の思い出のために参加することに決めました」  舟蟲が訊いたわけでもないのに、彼は参加の動機をしゃべった。舟蟲は顔をしかめた。「キミ、名前は?」 「阿久根淳です」  現在大学三年だという。  舟蟲はかるくうなずき、次をうながした。  三番目は青年とういうよりはもっと幼い顔立ちをしていた。遠沢卓。遠沢拳也の弟だという。黒縁眼鏡がトレードマークだな。舟蟲は弟の風貌を眺めながら特徴を記憶にとどめた。あと、グレーのブレザーにえんじ色のネクタイもだ。兄貴に似てほっそりイケメンってやつだ。 「高校はどこ?」  舟蟲は尋ねた。 「玉川上水高校二年です」 「あ、そう」  舟蟲は素気なく返事をしながら、ほかの若者たちも見まわした。  女の子がふたり並んでいる。女の子たちの後ろにがっちり体形の男がいた。舟蟲はがっちり体形の男の所持品が気になったが、先に女の子たちに自己紹介をさせた。  
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