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先導役となったピレイは吹き抜けになった階段を上っていった。階段を登りきると広い通路が左右に分岐している。ピレイは左にも右にも行かず、真正面にある部屋のドアノブに手をかけた。
「まずはここから・・・お入りください」
ピレイが最初にツアーを通した場所は、長椅子と簡素なテーブルが置かれただけの殺風景な大部屋である。窓のブラインドをおろした室内は薄暗く、埃のにおいが立ち込めていた。
好奇心旺盛な高校生と大学生たちはぞろぞろと中に入った。
「私はガイドを務めさせていただく、マートル・ピレイいいます。どうぞよろしくです。注意点として、むやみにあちこちを歩き回らないでください。この建物の内部は迷路状になっていて、迷子になっても声は届きませんから。よろしいですね」
ツアーの男女たちは神妙な顔つきでうなずく。
舟蟲は笑いをかみ殺すのに一苦労した。建物の内部が迷路になっているのは地下室だけで、二階はラウンドになっていて、右回りでも左回りでも元の場所に戻って来れる。
「この部屋は、かつて来客用の待合室として使ってました。以上です。では、つぎ行きましょう」
「すいません、ちょっと撮ってもいいですか」
レッドソックスの野球帽をかぶった伏見敏夫が一眼レフを掲げた。
「ああ、かまわんよ。ただし、何が写っても責任はとらんからな」
舟蟲は承諾した。伏見が動画撮影していると、霊感の鋭そうな小林奈菜が舟蟲の前に来て疑問を口にした。
「あの男の子、誰ですか。船山さんはご存じなのではないのですか」
舟蟲はこの少女は何者だろうと考えながら答えた。
「キミには見えたのか。俺には何も見えなかったが、感じることはできた」
「やはり、ここには何かいるのですね」
「だから、確かめるためにここへ来たのだろ?」
「ええ、そうなんですけど」
奈菜は歯切れの悪い反応を示した。舟蟲にはそれが不可解だった。この少女は怖がっていない。しかも、きゃあきゃあとはしゃぐタイプではない。どちらかといえば、オカルトとか心霊現象などに興味を示さないタイプのように思えた。なら、なぜ彼女はここにいる?
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