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公園のベンチに座り、泣いていた彩音の元に古谷がやって来た。走って来て倒れ込むように彩音の隣に座り、息を切らして冗談ぽく言った後、息を整えて尋ねた。
「で、何で泣いてる?」
そう訊かれて、彩音は答える事が出来ない。休憩室で笑って誤魔化したのに、彩音が泣いている事に気づき追って来た古谷。まだ「好きだ」と「諦められない」と言える訳もなく、泣いている理由をどう言おうかと彩音は考えていた。
すると古谷が立ち上がり、彩音の前に立ってスッと座り、真っ直ぐに彩音を見上げ話す。
「俺が気に障るような事を言ったなら、謝る。ごめん。でも、水川がなぜ泣いているのか、ちゃんと理由が知りたい」
(言ってもいいのかな? 古谷先輩なら聞いてくれるかな…)
彩音は涙を拭き古谷を見つめて、本当の気持ちを話し始めた。
「古谷先輩……」
「ん…?」
「先輩が好きです。先輩が、他の誰かを好きでも……私は先輩が好き」
「水川…」
「何度も諦めようって思ったけど、無理だった。でもダメなんだよね。もう諦めないと……だから本当は、食堂で先輩にお別れを言ったんです。朝の発表でもう手が届かない人になったから…」
拭った涙がまた溢れてくる。
「これでやっと先輩を諦める事が出来るって思って……でも先輩、わざわざオフィスに来るから……私の気持ちが引き戻される…」
彩音の目から涙が零れ落ちる。
「っ……言わなきゃよかった……あの時「避けないで」って、言わなきゃ、先輩はオフィスにも、ここにも追って来なかった…のに…」
あの時にはこんなにつらく苦しくなる事なんて、想像していなかった。古谷の優しさが彩音を苦しめる事になるなんて、1年前の彩音には分からず、ただ今まで通りの関係でいられたらと思っていたのだ。古谷の想い人を知ってから何かが変わり、彩音の心はつらく苦しいものになったのかも知れない。
彩音が本当の気持ちを話し涙を流していると、古谷は目を潤ませ少し寂しそうに微笑み話し始めた。
「そっか。俺が水川を泣かせているんだな。ごめんな。でも俺は「避けないで」って言ってくれた事が嬉しかった。水川の気持ちに応える事が出来なかったけど、それで終わりじゃないんだって、また以前のように楽しく話せるんだって……話しかけていいんだって…思ってたから」
古谷の目から涙が零れ、頬を伝う。
「だけど、それで水川を苦しめているなら……もうやめる。ごめんな。好きになってくれてありがとう」
優しく微笑んで古谷はそう言い、立ち上がって公園を出て行った。彩音は声を上げて地面に泣き崩れた。地面に大粒の涙が次から次へとしみ込んでいった。
しばらく公園で泣いた後、彩音はオフィスに戻り早退届を出して家に帰った。親友の笹山が彩音の顔を見て「どうしたのか」と心配していたが、まだ話せる余裕はなく改めて話すと言った。
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