出会い

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「何か取ってあげるよ。俺、クレーンゲーム得意なんだ」 「えっ…あ、そうなんだ」 彩音は少し迷ったが、嶺岸の厚意を素直に受け、クレーンゲームを見回し、可愛いフワフワのクッションを指さした。 「じゃ、あれを…」 「うん、いいよ」 優しい笑顔を見せる嶺岸。カフェでの第一印象は少し苦手なタイプだったが、話しているうちに悪い人ではないと印象が変わった。彩音に何かと話しかけてくる事が多く、彩音は困っていた。悪い人ではない、寧ろ、優しいくらいだ。だけどこの先を期待し優しくされても、大失恋をした彩音には嶺岸の期待に応える事が出来ない。 真剣にクレーンゲームに集中し、ボタンを巧みに操作して簡単に取ってしまった。取り出し口からクッションを取り出し、笑顔で彩音に差し出す嶺岸。 「ありがとう」 彩音は笑顔で嶺岸に礼を言って、クッションを受け取った。2人でゲームセンターの中を回ると、皆もクレーンゲームに夢中になっていて、大竹や竹之内もぬいぐるみを抱えていた。ただ笹山だけは持っておらず、頬を膨らませて男性3人に取って欲しいと頼んでいた。 何度も挑戦してやっと笹山の望んだ物を取り、笹山が喜ぶ。彩音はその様子を見て、嶺岸に小声で言った。 「ふふっ、嶺岸さんなら、一発で取れたんじゃない?」 すると嶺岸は少し屈んで、彩音の耳元で囁く。 「俺は、気に入った子にしか取ってあげないんだ」 とっさに嶺岸に視線を向ける彩音に、嶺岸は微笑んで真っ直ぐ立ち皆に視線を向けた。 ゲームセンターを出て、予約していた居酒屋に入る。カフェで話しをしゲームセンターで遊んで居酒屋に入った8人は、すっかり仲良くなっていた。男女で席を分ける事はなく、なぜか自然とカップルが成立していて、それぞれ自由に座った。 彩音が座った右隣に嶺岸が座り、左隣に笹山が座り彩音に近づき耳元で話す。 「いい感じじゃない。嶺岸さんいい人みたいだし、私の事は気にしないで仲良くしなよ」 「いや、いい人だけど……そんなんじゃ…」 「いいじゃん。せっかくいい人と出会えたんだから」 「鈴、私はまだ…」 「彩音、もう新しい恋が目の前にあるんだよ。ほらっ」 笹山がそっと嶺岸を指さす。彩音はその指さす方へ視線を辿らせると、嶺岸が微笑んでいた。 「ふっ、何?」 嶺岸が微笑みながら彩音に尋ねる。彩音は小さく首を横に振った。メニューを広げ嶺岸が彩音に何を食べるか尋ねて来る。彩音と嶺岸の距離は近く、手のひら1つ分ほどしかない。他の3組もそれぞれメニューを見て話している。 注文の品を決め、店員を呼び、それぞれ注文を通し運ばれて来た酒のグラスを持って乾杯した。酒が進むにつれ2人の距離は近づき、すでに嶺岸の左手は彩音の背後の畳に手をつき、肩と肩が重なり触れ合っていた。 「水川さん、このあと2人でどっか行く?」 彩音の耳元で嶺岸がそう囁き、耳に口づけた。
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