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営業部長の星野 岳、社長の息子でいち社員として、営業の経験を積み実力で昇進した実力者。その星野が副社長に任命された。そしてその横に古谷の姿があり、彩音は声を上げた。
「えっ! 古谷先輩……どうして…」
「おいおい、古谷が何でそこにいんだよ」
マーケティング部のオフィス内がざわつく。次の瞬間。
「古谷 湊は副社長補佐として任命する。今まで周知されていなかったが、古谷は親族であり、岳とはいとこ同士にあたる。私としてはこの2人に、今後さらなる飛躍を期待し任せていきたいと思っている」
社長の言葉に皆、納得せざるを得なかった。
古谷 湊、27歳。
1年前、マーケティング部から営業部に異動。異動が決まった際、営業部長の星野が引き抜いたという話がある。彩音の研修を担当し、研修後も彩音の世話を焼き仲良くしていた。優しくイケメンで女性社員の人気も高い。
(古谷先輩が、星野家の親族だったなんて……だから、星野部長とよく一緒にいたんだ……営業部に異動になったのも、そのため…)
「ねぇ彩音、いいの? 社長室に異動したら、今度こそ本当に会う機会なんてもうないよ?」
同期で親友の笹山 鈴が隣で言う。
「うん……でも、どうしようもないもん。私の想いなんて…」
「彩音…」
社長に紹介され、以前とは別人のようにカッコよくスーツ姿でビシッと決めた古谷が挨拶をしている。彩音はモニターに映る古谷を見て、本当にもう手が届かないのだと諦め始めた。
「次に、私から発表させて頂きます」
星野がモニターに現れ、営業部の営業事務をしている町田との結婚を発表した。
「町田さん…?」
「彼女って、星野部長と噂があって、ちょっと前までは古谷先輩とも噂になってたよね」
「うん……うそっ…結婚? じゃ……先輩は…?」
彩音は耳を疑った。星野と町田の結婚が発表された瞬間、彩音の脳裏に浮かんだのは、古谷が町田を遠くから見つめる姿だった。
古谷が営業部に異動してから3ヶ月を過ぎた頃、社員食堂で食事をしている古谷を見つけた。彩音は古谷のそばに行き声をかけようとしたが、古谷は真剣な目で窓際を見つめていた。その視線の先には、星野と町田が向かい合って食事をし楽しそうに笑っていた。
その古谷の後ろ姿に彩音は声をかける事が出来ず、別の場所で食事を済ませた。また別の日に食堂で古谷を見つける。その日も同じように窓際を見つめていたが、その先には町田の姿だけがあった。
(彼女を見つめているの? もしかして…好きな人って…)
それから1ヶ月、2ヶ月と過ぎていく内、古谷と町田が親しそうに話しながら帰って行くのを見かけた。社内の噂も星野と町田の交際の噂が、古谷と町田の交際の噂に変わり、古谷の車に町田が乗って帰るところを見た者まで現れた。
(もういくら想っていても、叶う訳がないよね…)
そう思い諦めようとすればするほど、古谷への想いは断ち切れず、彩音は秘めた想いを抱えたままだった。
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