久しぶりの会話

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久しぶりの会話

***** 湊は従兄(いとこ)の岳と澪の2人と一緒に楽しく食事をしていた。ふと強い視線を感じ、湊は食堂内を見回す。すると食堂の出入り口に向かう、後輩2人の姿を目にした。 (あれは、笹山と水川……食堂にいたのか。でもアイツ…) 湊が以前マーケティング部にいた時の後輩達で、水川とは特に仲が良く湊自身、水川の事を気にかけ世話を焼いていた。 (俺に声をかけなかったのか? もしかして、朝の発表で…) ササッと残りを食べ終え、湊は立ち上がりまだ食べている2人に話す。 「ごめん、ちょっと用事を思い出した。俺はもう行くから、岳と澪ちゃんは先に戻ってて」 「おぅ、分かった」 岳が答え、澪も頷く。湊はトレーを持ち少し慌ててテーブルから離れる。 「悪い。すぐ、戻るから」 そう言ってトレーを返却口に置き、急いで食堂を出た。そのままエレベーターに乗り込み、3階に上がる。少し前まで毎日のように降りていた3階フロアー。その雰囲気に少し懐かしさを感じる。湊は営業部のオフィスを覗き、オフィスにいた営業や営業事務に声をかけ少し話をして、マーケティング部のオフィスに向かう。 マーケティング部のオフィス前。開いているドアから中を覗き、出入り口で社員に声をかける。 「お疲れ様です!」 すると社員達が一斉に湊に集中した。一斉に向けられる視線に湊は少しひるむが、続けて言った。 「水川に話があるんだけど、ちょっといい?」 ガタンと音がして、湊が音がした方に視線を向けると、水川が立ち上がって返事をした。 「えっ、あ、はいっ!」 突然、湊が声をかけたからか、水川の声が裏返っている。慌てたようにデスクから湊の方に向かって来る水川の背後で、社員達が湊に話しかけて来た。 「古谷! 朝の発表、皆、驚いたんだからな! お前、何も言わなかったし、まさか星野社長の親族だったとはなぁ」 「あぁ、入社してから何も話せなくて、ずっと黙っていて本当にすみませんでした」 湊は皆に頭を下げて謝罪した。湊の前に水川がやって来て小さな声で言う。 「古谷先輩……何ですか?」 「あぁ…ちょっと、休憩室に行こうか」 湊は皆に「失礼します」と言って、オフィスをあとにした。 水川をつれて休憩室に入り、湊はそのまま自販機に向かう。 「水川は座ってていいぞ。カフェオレだよな」 「あ、はい…」 湊がマーケティング部にいた時から変わっていない。2人でよく休憩室でコーヒーを飲みながら色んな話をした。水川はいつもカフェオレを飲んで、湊は()き立てコーヒーを飲んでいた。 上着の内ポケットから財布を出し百円玉を2枚取って、財布をしまい自販機に1枚入れカフェオレのボタンを押す。出来上がりを待つ湊。ほどなく出来上がりランプがついて、小さな扉を開きカフェオレの入った紙コップを取り出す。 もう片方の手でもう1枚を入れ、挽き立てコーヒーのボタンを押す。出来上がるまでに、カフェオレを水川の元に持って行き、テーブルにそっと置く。 「ありがとうございます。いただきます」 「どうぞ」
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