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出来上がりのランプがついて、湊は扉を開き紙コップを取り出して、早速、ひとくちコーヒーを飲む。そして水川が座る向かい側の椅子に座り、紙コップをテーブルに置いた。
「久しぶりだな、水川。元気そうだな」
「はい。お久しぶりです、古谷せんぱ…あ、違った。古谷補佐…」
「ふっ、いいよ。今まで通りで…」
「でも、今までと立場が違う…」
「同じだよ。俺は水川の先輩だ。だろ?」
「古谷先輩…」
「そう、それでいい」
湊は優しく微笑み、水川とコーヒーを飲む。2人でコーヒーを飲んでいると、湊は思い出したかのように、紙コップをテーブルに置いて水川に言った。
「水川、さっき、食堂で俺に声かけなかっただろ!」
「えっ…」
「お前……俺を避けたのか? 約束したよな、避けないって。お前が言い出したんだぞ。それを…」
「避けた訳じゃないですよ。だって先輩、もう私が気軽に声をかけられるような人じゃないから…」
水川は湊の話を遮るように食い気味で言い、寂しそうにうつむいた。
「なんだそれ? 今、こうして話してて、何か変わっているか? 別に何も変わってねぇだろ?」
「はい……何も変わってない…」
うつむいたままそう言う水川に、湊は少し姿勢を正し頭を下げる。
「あっ、でも、悪かったとは思ってる。朝の発表で俺が親族だった事、水川も驚いたか?」
「はい…」
「水川には何度か話そうと思ってはいたんだけど、話して変に気を使われたりするのが嫌だったんだ。でも、今思えば、水川はそんな奴じゃないよな」
そう言って微笑むと、水川は顔を上げ笑顔で言った。
「いや、そんな奴ですよ……実際にさっきそうだったんですから…」
その笑顔は少し強がっているようにも見える。いつも水川を見ていた湊には、少し違和感を感じた。
「いや…違う。本当は何か別の事で、俺に声をかけなかったはず。例えば……俺が親族だって話さなかった事を怒ってたとか? 「何で話してくれなかったんですかぁ」って」
水川の真似をして言うと、水川は笑っていつものように言った。
「ふふふっ、正解! 何で話してくれなかったんですかぁ! 私はそんな事で態度を変えたりしませんよ!」
「はっ、はははっ! やっぱ水川最高! 俺、お前のそういうとこ好きだわ!」
(水川といるとやっぱり楽しい。あの頃もそうだった。だから、いつも一緒にいたんだ…)
さっぱりとした性格で、性別や年齢問わず、言いたい事は言う。物怖じしない姿勢が、カッコよくて湊は少し憧れていた。
「せ、先輩! 失礼します!」
水川がスッと立ち上がり、急にそう言って休憩室を飛び出して行った。
「えっ、水川! どうした! おぃ!」
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