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湊がとっさに立ち上がり水川に呼びかけたが、水川は振り返る事なく休憩室を飛び出して行った。
「何だよ……急にどうしたんだ?」
何が何だか分からず湊は呆気にとられ、少し前の会話を思い返し、水川の気に障るような事を言ったのか考える。ふと水川が飲んでいたカフェオレに視線を向けると、テーブルにポツポツと2つの雫があった。湊はその1つを指で拭って見る。
「……水? いや、水なんてない。じゃ、これって……涙…?」
そう気づいた時には、湊は休憩室を飛び出しマーケティング部のオフィスに向かっていた。マーケティング部のオフィスの出入り口で、湊が大きな声で叫ぶ。
「水川! !」
返事は無く、他の者が答える。
「水川は戻って来ていないぞ。古谷、一緒じゃなかっ」
湊は最後まで話を聞かず、オフィスを離れ水川を探しに走る。3階にある部屋を探して回り、トイレの中も見るが水川は見つからない。
「はぁっ、はぁっ、どこに行ったんだ? 水川、何で、はぁっ、何で泣いていたんだ…」
湊はエレベーターに乗り、1階に下りて受付の社員に尋ねる。
「少し前に、女性社員が飛び出して行ったって事ない? マーケティング部の水川なんだけど」
受付の3人の女性社員が顔を見合わせて、お互いに訊き合い答える。
「あっ確か、数分前に、女性が走って出て行ったのを見ましたよ。でも泣いていたのかな? 手で顔が隠れていて見えなかったんです」
「あぁ、ありがとう」
湊はズボンのポケットから携帯を取り出し、電話を掛ける。
「あっ、岳。悪い、まだ戻れない。今日の打ち合わせは3時だったよな。2時半には出るから、それまでには戻る。悪いけど、資料とかの用意頼んでいい?」
《あぁ、分かった。用意しておく。湊、何かあったのか?》
「あぁ、うん。ちょっとね…」
《大丈夫なのか? 俺も何か》
「いや、大丈夫。岳、ありがとう。じゃ」
《うん…》
電話を切ると湊はビルの出入り口を出て、周辺を探して回る。水川は休憩室からオフィスに戻らず、そのまま自社ビルを飛び出している。という事は、携帯や財布は持っておらず、行ける所はそんなにない。精々、空き地か公園くらいだ。湊は周辺にある空き地や公園をくまなく探して回る。
すると、ポツンと公園のベンチに座っている水川を見つけた。湊は大声で水川を呼ぶ。
「水川! !」
うつむいていた水川が顔を上げ、湊の声を探し見回している。湊は水川の元に走って行き、なだれ込むように水川の隣に座って息を切らして言った。
「はぁっ、はぁっ、お前、突然やめろ。俺、最近、運動不足で、走れねぇんだからなっ」
「ごめん…なさい…」
「で、何で泣いてる?」
湊はベンチに座り直し、うつむいている水川の顔を覗き込み尋ねた。
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