久しぶりの会話

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(古谷先輩……大好きでした。バイバイ…) 彩音は最後に一度だけそう心の中で別れを告げ、食堂をあとにしオフィスに戻った。デスクで昼休憩の残りの時間を過ごしていた時、突然オフィスの出入り口から古谷の声が聞こえた。 「お疲れ様です!」 (えっ! 古谷先輩?) 「水川に話があるんだけど、ちょっといい?」 古谷がそう言ってオフィス内を見回す。彩音は驚いてガタンと音を立て慌てて立ち上がり、返事をした。 「えっ、あ、はいっ!」 驚いて動揺していたせいで声が裏返る。彩音は古谷の元に向かいながら、頭の中は混乱していた。 (どうして急に? 話って何だろう? ていうか久しぶりだし、カッコいい…) 彩音には古谷しか見えておらず、周りの社員が話している事など耳に入っていなかった。彩音は古谷に小さな声で言う。 「古谷先輩……何ですか?」 「あぁ…ちょっと、休憩室に行こうか」 古谷は彩音を見下ろしそう言って、オフィスから休憩室に向かった。 中に入って、古谷は以前と同じようにそのまま自販機に向かう。 「水川は座ってていいぞ。カフェオレだよな」 「あ、はい…」 古谷がマーケティング部にいた時、彩音と2人でコーヒーを飲みながらよく話をした。あの頃のように、古谷が彩音にカフェオレを買ってくれて、古谷は挽き立てコーヒーを買って、向かい合って座る。彩音は懐かしさを感じながら、古谷が買ってくれたカフェオレを飲んでいた。 古谷が彩音の向かい側に座って、テーブルに紙コップを置き話し始める。 「久しぶりだな、水川。元気そうだな」 「はい。お久しぶりです、古谷せんぱ…あ、違った。古谷補佐…」 「ふっ、いいよ。今まで通りで…」 そう言って変わらない笑顔を見せる古谷。だけど彩音の中の真面目さが顔を出す。 「でも、今までと立場が違う…」 「同じだよ。俺は水川の先輩だ。だろ?」 「古谷先輩…」 「そう、それでいい」 古谷はいつもそうだった。彩音の先輩だが仕事の時以外は、先輩と後輩という上下を区別する事はなく何でも気軽に話し、彩音の事を理解してくれる人だった。役職についたとしても、それを振りかざすような人ではない。彩音が思っていた通りだった。 彩音はカフェオレを飲んで少し落ち着き、久しぶりに古谷と話し嬉しく思っていた矢先。古谷が急に思い出したかのように言った。 「水川、さっき、食堂で俺に声かけなかっただろ!」 「えっ…」 (見られていたんだ…)
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