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そまる、そまる。
「遠い世界に、想いを馳せてー」
ふんふんふん、と歌を歌いながら、あたしはスマホを握りしめた。スマホの画面の中で流れているのは、推しアイドルの生配信動画である。
中学生の時から推しているアイドルグループ“マリンセス”。青を基調とした衣装の、華やかな男性ん三人組アイドルグループだ。中でもリーダーの“カノン”があたしの推しだった。さらさらの茶髪に青い目は、ハリウッド女優だった母親からの遺伝。本人は子供の頃から日本にいるので日本語はぺらぺらだし、普通に日本人の学校にも通っていたという。中性的で爽やかな歌声と魅惑的な笑顔は、今日も今日とて全国の乙女たちを魅了している。あたしもその例に漏れないというわけだ。
ありがたいことに、高校の友達に同じカノン推しはいない。同坦拒否のあたしにとってはこれ以上なく幸福なことだった。マリンセスの話をしながらも、同坦がいないので安心して推しについての萌えを語れる。それこそ、将来カノンと結ばれる妄想を語っても誰も咎めないし、友達が別の推しとの妄想を語っても同じだ。
「愛の海にー、溺れたいのー。LalalalalaーLalalalalaー」
スマホの画面の中で、カノンがくるりと華麗にターンした。きゃあ!と思わず歌うのもやめて声を上げてしまうあたし。画面ごしだから、そんなわけがないということくらいわかっている。それでも、はっきりと目が合ったような気がして胸が高鳴るのは止められない。
大好きなカノンが、あたしに向かって語りかけてくる声が聞こえるようだ。
『万里乃。僕の愛しい万里乃。いつか君の所に迎えに行くからね。それまでは、僕以外の男のことなんか見ちゃ駄目だよ、いいね?』
「はい、カノン様ぁ……!」
戸田万里乃十六歳、花の女子高校生は。現在占いと、推しアイドルに夢中であった。
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