結婚式

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結婚式

 白無垢。純白のウェディングドレス。 『これから結婚するあなたの色に染まります。』  もしくは、 『これから同居するあなたの家庭の色に染まります。』  という、意思表示だと。  美恵子は神前の結婚式を行うために白無垢を着せられていた。  白無垢を着つけてくれた式場の人がさっきの台詞を言ったのだ。  式直前のこの期に及んで漠然と考えたが、どうにも納得いかなかった。  なんで結婚したからって、相手の色に染まらなければいけないのか。  まして、相手の家庭の色に染まるなんてとんでもない。  昔は結婚は相手の家庭に入ることを意味していたのだから、それも致し方なかったのだろう。でも、今のこの時代にそれをわざわざ説明するこの式場の人ってなんなの?  美恵子は幸せいっぱいで式場に来たのだが、今はなんだか不機嫌になってしまった。  式までは花婿と会う時間はないと言われていたので、夫になる雅俊に私はあなたの色に染まらないわよ。と宣言する時間もない。  勿論、雅俊のことは好きだが、相手の色に染まるというのはつまり、何か意見の不一致があった時にも相手の意見を優先させるという事だろう。  でも、結婚式の前にそんなことをわざわざ告げる勇気も、時間も、もうなかった。そんな気持ちのまま、神前の結婚式は美恵子の気持ちとは裏腹に、順調に終わってしまった。  そのまま、白無垢でまずは披露宴へ。  美恵子はこのタイミングでやっと雅俊と話すことができた。 「ねぇ、さっき式場の人がこんなこと言ったんだけど・・・」  と、さっきのあなたの色に染まりますと、美恵子はそれってどうなのよ。と思っていることを雅俊に告げた。 「へぇ、式場の人って昔ながらのことだからわざわざそんなこと言ったのかな?」 「知らない。でも、私はなんだか嫌だった。」  美恵子がプリプリ怒っているのを見て、雅俊は優しく笑った。 「俺の色に染まってくれなんて思っていないよ。美恵子は美恵子だもん。」 「もし、何か色を付けていくとするなら二人で一緒に染めていけばいいんじゃないかな?」  美恵子はパッと雅俊を見た。 『やっぱり私の選んだ男だ!いいこと言うじゃん。』  さっきとは一変、頬を染め、ニコッとしていつもの可愛い美恵子に戻った。 「うん。その為に結婚するんだもんね。」 「これからの人生を二人で綺麗な色に染めていきたいね。」  美恵子はそう答え、披露宴でのお色直しで純白のドレスに着替えたときにも、これからの二人の生活に思いを馳せ、人生で最大の幸せな時間を過ごしたのだった。 【了】
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