出来ればやりたくない仕事

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出来ればやりたくない仕事

 これまで造園の仕事をしてきましたが、できれば二度とやりたくない仕事があります。  ずばり、秋冬の河川と夏場の道路草刈です。  それは何故か。  河川は寒くて草がデカすぎる。  道路は危なくて汚なすぎる。  まずは河川のお話から―――。  河川の草刈は読んで字の如く、川の草刈りです。  多くは川の中ではなく土手の草刈りですが、たまに川の中や水面に面した草刈りもあり、こちらが相当大変。  伸びているのは(あし)や蒲の穂のようなものが主で、一見そのままでも風情があるし―――、なんて思われますが、増水時には流れを良からぬ方に変えてしまったり、流れてきた物を堰き止めたりと悪影響することがあり、毎年の管理が必要です。  作業手順としては通常の草刈りと変わりませんが、問題は草丈が尋常ではないことと片付けの面倒さ。  常に水があるため驚異的な伸び方をします。  春先は底が見えているのに、夏には上に掛かっている橋にまで到達する場合も。  これを刈っていくのですが、なんと機械は刈払機に限られます。  というのも、河川の底というのは何処も彼処も湿気っていて、障害物だらけだわ、かなり地盤も弱い。  人が踏む分には問題なくても車両や大型機械を入れると地面が崩れたり、泥濘に嵌るので入れることができません。  そのため、ここでも人海戦術となります。  皆で一定距離を保ちつつ力任せに回転する刃を振り回し、藪を開拓するが如く自分等の背を超える草を薙ぎ倒しますが、難敵は足元の水。  回転刃のため水面にぶつかると、中々の衝撃を伴って失速。  当然、切れなくなります。  同時に水飛沫を全身に浴びることに―――。  そのため河川ではレインスーツと丈の長い長靴が必須。  夏は日差しで乾くので良いですが、冬場は寒いし飛んでくる飛沫が痛く感じるため泣きたくなります。  そして、約二メートルを余裕で超える草を集めるのもまた人力―――。  極力、刈る時にダルマ落としの如く、短めに刻んでいますが、それにも限界があり、長過ぎて集め難いこと此の上なし。  また、川底にある蛇籠や玉石が熊手の爪に引っ掛かるため、早々壊れない筈の大熊手(爪が太くて沢山の草を集めるのに適している)が見事に壊れます。  挙げ句、河川の草は独特で、草と言うより最早細い竹を思わせる硬さとしなりがあります。  故に、折り重なった草を無理に引っ張ったりすると、弾みで枝の如く硬い草が跳ねて顔や体に飛来。  鞭を食らったかのような激痛です。  私、目が悪いので日頃からメガネを着用しているのですが、過去にそれで鼻あてが曲がったことがあります。  寧ろレンズが割れなくて不思議なくらいでした。  そんなこんなで除草と集草を終え、さあ、回収!  ―――と、これもまたしんどい。  想像に易いと思いますが基本、川って道路より下にあります。  そのため、集めた草を毎度の如くブルーシートに入れるまでは良いのですが、それを運ぶのが一苦労。  ユニック車(小型のクレーンがついた車)が使えれば楽ですが、道が狭くて入れなかったりすると土手の上からロープを垂らして、二、三人掛かりで下から上へと引っ張り上げます。  なんとまあ古典的ですが、これしか方法がありません。  この時、簡単に脱着出来てしっかりと草ゴミを引き上げられるロープの結び方があるのですが練習しないと、これが素早くできず、若手は先輩から茶化されたり叱られる羽目に。  河川の草刈りは往々にして体力的にもしんどいので、普段温厚な先輩でもキレやすくなっていて殺伐とし易いのも嫌なところです。  そしてもう一つ嫌な所として、草が乾かず兎に角重いので、その分処分費が嵩む所。  もたもた仕事をしていると経理の目が鋭くなります。  家庭から出るゴミもですが、処分費はキロ数で換算されます。  処分費が安くなればその分稼ぎになるので、出来れば草を乾かして軽くしてから捨てに行きたい所ですが、川では雨が降って増水すると草ゴミが濡れてしまうだけでなく、下流に流されてしまう危険も。  後々トラブルになるといけないので、刈ったら基本その日か早い内に回収しなければなりません。  それ故、片付けに手間取り作業が押して帰りが遅くなりやすい弊害もあり、作業員としてはあまりやりたくない仕事なのです。
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