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2. 新大久保~渋谷
「あの赤ちゃん、やばない?」
電車内にぽつんと取り残されたピンクのベビーカー。そこに駆け寄ったのは、二人組の女子高生、ニーナとジュリだった。
気づいている乗客は他にもいただろう。が、ドア横のスペースに寄せて停められたそれに、数分間、誰も関わろうとはしなかった。
電車は高田馬場の隣の、新大久保駅を出発したところだ。駅では結構な人数が乗り降りしたにも関わらず、ベビーカーを守る大人がいない。その異常さに気づいたニーナが、ジュリを促して席を立ったのだ。
「え~? この子、違うんですぅ?」
金髪のジュリが、位置的に一番「保護者らしい」席に座っている男性に声をかける。が、男性は戸惑い顔で首を横に振った。
「高田馬場から乗ったんだけど、その時にはそれ、そこにあったよ」
そう言われ、ニーナが茶色いショートボブを揺らして首を傾げる。
「ワンチャンどっきりとか」
「こんな危ないどっきり、メロス激怒だよぉ~」
「それな」
二人が覗き込むと、ベビーカーの赤ちゃんは、ぷるぷるの口を半開きにして健やかに眠っている。
「あの、」
思わず顔がゆるんだニーナとジュリに、向かいの席の女性が声をかけた。
「そこの席にさっきまで座ってた人が、母親だったんじゃないかな。うとうとしてて、高田馬場でバタバタ降りて行ったの。ベビーカーを置いて行ったから、『お母さんじゃなかったのか』って、意外に思ったんだけど」
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