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実はソノ気になった姉に乗せられ、何度かカラオケボックスに連れて行かれた。
友人にそそのかされ、もしかしたらイケるのかも……と期待して、弟が “ どんなもん ” なのか確認したかったのだろう。
ダンス&ボーカルグループの振り付けをすぐ覚えて、楽しそうに踊れてしまう姉の指導のもと、ダンスの特訓もさせられた。
そのセンスが僕に少しでもあったら……と羨ましく思いながらも、期待に応える事はできなかった。
「音程違うって!」
「右手右足一緒に出してどうすんのよ! 右手と左足!」
「5、6、7、『8』でターンだってば! 遅いっ!」
…………………………
「うえぇ〜! どうすりゃいいの〜っ?!」
息も絶え絶えに、カラオケルームのソファーに倒れ込む僕。
投げ出されたマイクがハウリングを起こし、僕の下手な歌を締め括るように不快な音を響かせた。
「アンタ、声も運動神経も悪くないのに、なんで……」
「さぁ……。それとこれとは別カテゴリって事なんじゃ……」
――そして姉は、サジを投げた――
けれどその後も、姉の別の友人が来る度に同じ事を言われ、友人を諦めさせようと取りなす姉の姿も、だんだん癪に触るようになった。
「いや、宝の持ち腐れとかそういうんじゃないんだってば!
無理なんだって。コイツ、顔だけだから。
あぁ、でもね、すっごく優しいんだよ! この前だってね……」
貶されてるんだが、褒められてるんだか、複雑な気持ちになりながらも、姉は、期待に応えられなくても僕を僕としてちゃんと認めてくれてる。
だから、それでいい……と思っていた。
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