だから歌とダンスはダメだって、あれほど…

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額や鼻の頭に浮かぶ汗を、タオルに顔を埋めて拭う。 この時、「これが航輝さんの匂いなんだ」と、何となく感じた事を覚えている。 親切な先輩だなぁ、と感激したけど、その時はまだそんな感覚しかなかったと思う。 でも、この頃から少しずつ、航輝さんが僕の心に入り始めたのかも知れない。 その後、航輝さんは、アキさんも呼び、僕を食事に誘ってくれた。 僕がアキさんに憧れて事務所に入ったのを知っていて、練習の時もよく彼を見ているのに気付いていたのだろう。 アキさんが励ませば、僕が頑張れるんじゃないかと思ったと、後で聞いた。 そんな気持ちに応えたい。 何とかみんなに追い付きたい。 僕は、時間の許す限り他の人より早めにスタジオに行き、一人で練習した。 「お、有宇(ゆう)くん、早いね~」 「航輝さんはどうしたんですか?」 「前の仕事終わってから繋ぎの時間 微妙でさ〜、どっかで時間潰すのも面倒だから来ちった。 じゃあ暇だし、練習付き合おっかな」 目尻を下げた笑顔でそう言いながら、航輝さんはストレッチを始めた。
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