だから歌とダンスはダメだって、あれほど…

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「いっぽ〜、二〜歩〜、ガバっとピョンピョン、草むら掻き分け、覗いてイェ〜イ」   音楽を掛けながら必死に振りをあてて行こうとする僕の隣に来て、航輝さんは妙な事を言いながら、それとは不似合いなほど華麗に踊る。 「航輝さん、笑っちゃってできません! 何すか? ソレ」 「振りを言葉に起こして、台本にすんだよ。 1、2、3、4、なんて呟いてたって、覚えらんねーだろ?」 一旦音楽を止め、変な呪文のような、子どもが勝手に作った歌のような航輝さんの妙な呟きを、僕も一緒に唱えながら、テンポを落として振りを頭と身体に入れていく。 少し後ろに下がり、航輝さんの動きを真似ながら……。 「よし! 取り敢えず何とか組み立てられたな。じゃ音楽かけるぞ。 途中 (つまづ)いたら、待機して次のフレーズから合わせりゃいいから」 「はい!」 「行くぞ。1(ワン)2(ツー)3(スリー)、GO!」 航輝さんの、肩まで捲り上げた半袖から覗く しっかりした腕の筋肉、 高く伸ばした指先、 身体を反らした時の顎から首のライン、 軽快にステップを踏む靭やかな脚、 揺れる前髪、 全てが激しく僕の胸を打つ。 床を蹴るキュッと言う音さえも、 全てが美しく感じた。 『空間を躍動していく刹那の芸術』 ダンスで人を魅了するって、こういう事か……
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