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一
秋も深まり、森の地面は落ち葉のじゅうたん。
夕方になり、クマさんはそろそろ寝ようと穴の中に入りました。
ウトウトしていると、足音が聞こえます。顔をあげると、シカさんがこちらへ走ってきている姿が見えました。
「クマさん、たいへんだ!」シカさんが言いました。
「シカさん、どうしたんだい。そんなに慌てて」
「森が火事だ! 火事になって、木がごうごうと燃えているんだ!」
それを聞いて、クマさんはびっくりして飛び上がりました。
クマさんはそばの木に登って、あたりを眺めてみました。たしかに、遠く離れたところで火の手が上がっています。
「こりゃたいへんだ。シカさん、よく知らせてくれた、はやく逃げよう」
クマさんは木から下りて走り出そうとしましたが、シカさんは、
「ちょっと待って」と言いました。
「なんだい、はやく逃げないと、火事で焼け死んでしまう」
「それが、もう手遅れなんだ。森のあちこちが燃えていて、僕たちはすでに火に囲まれてしまっている。逃げられる道は残っていないんだ」シカさんはがっくりうなだれて言いました。
「なんだ、そうだったのか。……でもシカさん、残念に思うことはない。僕は冬眠の季節にそなえて、大きな穴を掘っていたんだ。火事が収まるまで、一緒にこの穴の中に避難しよう」
「いいのかい?」
「もちろんさ、僕たちは仲間じゃないか。さあ早く」
クマさんはシカさんに冬眠用の穴の中に入るように言いました。
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