春の糧

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 私はこれまで、自分はこの村に馴染んでいると思っていた。厳しい自然の中でもなんとかなると思っていた。けれどもやはり、根本的にものの見方が違ったのだ。私は決して、他人が死ぬことを容認して生きることはできない。都会でも人は死ぬが、その死を決して仕方がないと容認したりはしない。  第一、リオーネが死ぬなど、容認できない。  最初に持ち込んでいた緊急キットを確認した。強心剤や抗生物質といった様々な薬が入っている。外の世界の最新のものだ。生きてさえ入れば、なんとかなる。  救命道具の他にもレーションや着込むと外気温に対応して適切な温度を保つジャケット、簡易の担架やサバイバルセットなど、様々なものが入っている。これまで着ていた前世紀のジャケットを脱ぎ捨て、体にピタリと沿ったメタリックなボディスーツを身にまと、その上に再びジャケットを羽織る。これで風や外気温の影響を遮断できる。  ゴーグルのモニタの示す赤い線をたどり、森の奥深くを進む。  この森の先に私は立ち入ったことがない。神の森として禁忌とされていた。けれども何が神の森だ。ただの人を食う化け物じゃないか。科学はこれまで様々な不明なものの正体を明らかにしてきた。今回だって。  そこまで考えて、溜息をついた。  私は何のためにここに来たのだろう。決して神秘を暴こうとしたわけではなかった。この世界の謎にこそ出会いたかったのだ。それを私の写真に収めたかった。それは真実私の本心だ。あるがままであったそれを暴こうと踏みにじったのは私の方なのだ。そうして私は最終的に、それと敵対しようとしている。その傲慢さこそが、私が嫌った文明だというのに。  けれども私は私の道を定めた。赤い道をたどりそこに辿り着くまでに私は覚悟を決めたのだ。  そう思っていたのに……その道の先で見たものに、私は三度目の混乱を来たした。
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