春の糧

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 進むにつれてますます雪は深くなり、けれども不自然に獣道の上の雪は消失していた。獣道に触れればその表面は、すぐに温かい。その獣道に重なってゴーグル上に表示される赤い線はくっきりとしていく。そして唐突に、情報が取得された。  DIN ZPP 25。ドイツ製の配管パイプ。非腐食性の非金属のパイプだ。  このゴーグルはサバイバル用のものだ。それにはインフラの整備が含まれる。だから一般的な工作機器の名称についてのデータが内臓されていた。  赤い線は高い温度を示す。とすればこのドイツ製の配管の内側に高温の液体が流れているということだろうそうするとこのさきにあるものは人工物なのか? まさか。  私は夏の間にこのあたりまでも調査した。ただ、野原や森林が広がっていただけだ。人工物などない。けれども私が夏に訪れた時、ゴーグルはつけていなかった。ゴーグル上に照らされる地図からいけば、もうすぐ夏にベリーを摘んだ原で、そして小川がある。けれどもその小川に沿うように太い赤い線が見えた。まるで区画を区切るように。  吹雪は全てを覆うように強く吹き荒れる。  けれどもゴーグルはその先の熱源を看破する。そしてリオーネのピンもその先を差していた。奇妙なことにそのピンも赤いラインも地下を指している。扉のような金属は検知されていない。サバイバルセットからシャベルを取り出して突き刺してしばらく掘ればそこには低木の木々の枝が見え、更に掘れば土に至る。夏に見た時は土に埋もれていたのだろうか。  栄養補助剤を齧りながらどのくらいその土を掘っていたのだろう、唐突に空洞が現れる。この深さであれば、おそらく随分人が入ってはいないのだろう。天然の洞窟だろうか。ごつごつとした岩がむき出しとなり、そうしてようやくその配管の正体が知れた。  知らなければ太い木の根のようにしか思われないだろう。慎重にその表面を削ってようやく配管と思われる硬い管に行き着く。その管はまるで血管のように暖かく、どくどくと内部を何かが流れている。この様子では、外から見ても配管とはわかるまい。  そうして私は立ち上がり、洞窟の奥を眺めた。リオーネのピンはこのすぐ先を示している。
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