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ヒュゴウと吹雪が駆け抜けた。
正面から吹きすさぶ雪混じりの強風は身を切るように痛く、全てを白で埋め尽くそうとしている。けれどもゴーグルからその果てを眺めれば、まっすぐに広がる平坦な地平線の上に僅かに虹色の光が滲んでいた。その光景をシャッターに納める。
極夜。
この南極にほど近い閉ざされた地は、夜の女神の力が極まる冬の僅かな期間、地球自身の作用によって太陽は地に屈服し、地表に顔を出すことはない。けれどもその力を振り絞り、地平線の僅か下を通り抜ける正午近くにだけ、わずかに世界に光を齎すのだ。
その光景はまさに世界の神秘で、世界の強大さについて恐れを抱かせる稀有な瞬間なのだろう。
「バルトロー先生、そろそろ暮れます」
「そうだな、リオーネ。戻ろうか」
「ええ。春が来れば先生の写真は全世界に解禁されるでしょう」
「そう……だな、しかしこの真実は」
けれども私が撮りたかったものはこの光景じゃなかった。
助手のリオーネを伴い、与えられた小屋に戻る時、僅かに振り返れば夜がぶわりとその手を伸ばし、世界を覆い尽くそうとしていた。
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