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「お願いだ。教えてくれ。リオーネに何があったんだ」
「それは……私たちはただ、冬を耐えているだけです」
「精神論でなんとかなる話じゃない。何を食べている」
何を、という言葉で私はある考えに行き着いた。外に行くこともできない冬に、食べれるものなど一つしかないじゃないか。ひょっとして、まさか、こいつらは。真っ青になった私の顔色をみたのか、ノニアは慌てて否定する。
「ち、違います。私たちはそんな」
「何が違うんだ。他に食べられるものなんて」
「本当に違うんです。その、私たちは……でも」
「でも?」
ノニアは部屋の隅を指さした。そこにはひょろりとした木が生え、そこに赤い木の実が生えていた。リンゴよりさらにまんまるで、見たことがない木の実だ。私の小屋にはそんなものはなかった。
「私たちはこの実を食べて冬を越します。1つ食べれば新しい実が1つ生えます」
「そんな、馬鹿な」
私はその実に近づき、ノニアの制止を聞かずにその実をもげば、しばらく経てばその先端に赤い蕾が膨らみ花が咲き、そしてあっという間に実が実る。まるで時間が遡ったかのように。
「な、何だこれは」
「……命の実です。けれどもなるべく秋までに収穫したもので保たせて、どうしても我慢ができなければ食べるのです。そうするときっと、この村の何人かはもう……食べたのでしょうね」
手の上に乗る赤い実、一見普通の果物にしか見えない。けれども一瞬、ドクンと波打ったように感じた。
「この実は何だ」
「この村の守り神が与えるものです」
「守り神……? けれどもこの村に神はいないだろう?」
私がこの村に滞在して半年、村人が特定の神に祈るのを見たことがなかった。ただ自然とともに暮らす、それだけで。
自然? 脳裏に浮かんだウィッカーマンのような影。
「あれが自然とでもいうのか? あの巨人が?」
そう訪ねると、ノニアは目を丸くした。
「バルトロー先生はご覧になったのですか!?」
「……あれは幻ではなかったとでもいうのか?」
「あれはこの森自身です」
そこから聞いたノニアの話は、確かにこの村、というよりこのあたりの伝承として聞いたことがあるものだった。
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