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この村は古くから森と太陽とともに暮らしていた。
5月に豊穣の祭りを行い、8月は収穫を祀る。11月は死者を弔い、2月は春の訪れを願う。そして森にはムーアという存在がいると考えられていた。それは森そのもので、村人に恵みと試練を与える。
けれどもこの村から夏が失われ、冬の割合が多くなった時、村人はとうとう村から出ることを決断した。そしてその最後になるはずだった冬、村の家々に枝が生え、実が成った。最初は奇妙に思ったが、食料が枯渇し、その実を食べる者が現れた。
実は甘く美味かった。だから村人はその実を食べるようになった。食べる毎に冬は厳しく、雪は吹きすさび、嵐が訪れる。人々は固く扉を締めて家の中に閉じこもる。
そしてある朝、雪はスッキリ晴れた。
そしてその晴れの日、一つの家が無くなっているのに気がついた。厳しい雪の重さに耐えきれなかったのかと村人は考えた。そうして再び嵐がきて、家が一つ無くなった。村人はこれも冬の厳しさのせいだと考えたが、春になって雪が溶けて埋葬しようと思って調べたところ、あるはずの死体どころか小屋自体がなかったのだ。
そしてその家の隣の子どもの一人が雪の夜に見たと証言したのだ。小屋が突然立ち上がり、夜の闇に紛れて歩き去っていったことを。そしてその胸部からは、隣の家の人間のものと思われる腕が突き出ていたことを。
そうしてその、もげば生えるその実が何かを村人は知った。
伝承に残る生命の樹の実。永遠をもたらす生命の樹の実だ。そしてこれは、全てが循環するこの土地においては、村の人々をその実に変えて循環させるものだろうということを。
そうして再び、この村は移住するかどうかの会議が行われた。その喧々諤々の会議は、様々な話が俎上にのぼった。
そもそも移住にはリスクが伴う。移住した先の都市ではこの村の自然とともに生きるという信仰を続けることなどおよそ不可能だ。だからそもそも、移住せずに死を待つというグループは一定程度いた。そこに村人の命で村人の命を賄うという選択肢があらわれたわけだ。それを良しとしないグループは立ち去った。
そして現在、それを容認した人々がこの村に住んでいる。
「ノニア。君は、君たちは他人の命を犠牲に暮らすというのか」
「先生。先生はそうおっしゃいますが、この村では死は常のことなのです」
「何」
「この村は自然とともに生きています。この村で生まれた人間は外の世界とは違い、病気や事故、時には動物に襲われて死にます」
死ぬ。
私はその言葉の温度差と、ノニアの真剣な眼差しに戦いた。私の住んでいた都市では、よほどの事故や病気でなければ、死ぬということはなかったからだ。
「森に入れば危険にさらされ、採集や狩りの途中で森で死ぬ人間も多いのです。特に厳しい冬では死ぬ者は一定数出ます。それを考えれば、それほど人口がマイナスにはなりません」
「ならば冬だけでも都会に出れば……」
そう言いかけて、ノニアの芯の強い瞳に、俺は何も言えなかった。
都会に出ることができるのなら、彼らはすでに出ているだろう。
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