春の糧

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 小屋を開けて外に出れば、先程まで晴れていたはずの空はにわかに灰色に曇り始めていた。そういえば、前の嵐の始まりもこのようだった。次第に空に灰色が増え、それから猛烈な吹雪となったのだ。  乾燥した空気の間に湿った風が潜り込む気配を鼻で感じた。けれども私はその内側に、常ならぬものの気配を感じることはできなかった。だからゴーグルにチップを差し込み、起動させる。これでこのゴーグルは私のPCと同期したディスプレイとなり、リオーネのいる方向を指し示す。それが青い文字で表示されたのを確認し、小屋の外に一歩を踏み出す。  そうすると、改めて私の視界に入ったものは実に奇妙なものだった。  小屋の入り口は2階部分にあり、地表よりも高い位置にある。けれどもそれまで白一色にしか見えなかった世界は、その凹凸をデジタルスキャンすることによって、複数本の凹み、つまり獣道のようなものが存在することが見て取れた。そしてその道は、ゴーグル内のモニタ上でリオーネを示すピンの方向に向かってた。そうしてその機能をサーモメータに切り替えれば、その異常は更に明らかとなった。  その轍の部分中心に赤い線がある。つまり外部よりわずかに温度が高い。その温度によって、その部分の雪がとけているのだろうか。その道は森の奥一点で収束しているようだ。そして反対側を振り返れば、ぽつぽつと立つ村の各小屋に繋がっていた。そして私の小屋と、リオーネの小屋があったあたりにはその赤い線は繋がっていない。  考えられる可能性。  このように各戸に敷設されるものといえば、インフラが思いつく。ガスや電気等だ。けれどもこの村にそのようなものがあるはずがない。あるとすれば、現在のこの村に必要なインフラといえば、やはりあの各戸に生えた木だ。命の実のなる木。  再び振り向いた森側は静まり返っているが、その赤い線がまるで心臓に集まる血管のように不吉に収束していた。
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