春の糧

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 私は写真家兼ルポライターだ。世界各地を巡り、人々の生活を写真に収め、筆を取る。二十二世紀も終わろうとする現在、写真家という職業はすでに滅びかけていた。  無数の衛星が地球を周回し、都市部はその全てが3Dに映像に収められ、あっという間に加工保存される。生活の場を仮想現実に移す人々も増え、現実を生きる者も減ってきた。  そんな常識の中で、未だ世界の一瞬を切り取る職業など、まさに絶滅危惧種に等しい。けれども私は人というものを突き詰めた極限の状態を描くには、その一瞬に全てを凝縮する必要があると思う。その切り取られた一瞬こそが、世界を揺らす動力源となるのだ。ダラダラと散漫に続く映像ではその時間の分だけ何かがこぼれ落ちて伝わらない。  そして私が今回被写体に選んだのも、私と同じく絶滅危惧種に等しい生活を送るこのウィーサルミの村だった。  この村の冬、禁じられた情報を世界に伝えること。私は世界に保護されたこの村に潜入取材を試みていた。 「本当にあなたくらいですよ、こんなに粘ったのは。けれども決まりはちゃんと守ってくださいね」 「ありがとうございます、村長」  貢物という忘れ去られかけた文化から始まる長い長い交渉の末、耳や腕をたくさんの装飾で飾った村長はそう述べた。夏の始めに私と助手のリオーネは小屋を貸し与えられ、村に滞在することを許された。この村の冬は厳しい。だから私たちは夏を過ごす間、それに耐えられるか試されるのだ。
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