春の糧

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 けれども次第に秋が訪れる。  僅かな木々が赤や黄色に色を変え、たくさんのベリーを集めてジャムや保存品を作る。木の実やきのこを採取する。鱒や岩魚を釣り、氷り始めた川を避けて海でアザラシやセイウチ、イルカやカリブーを狩って干し肉を作るのだ。干し肉はアザラシの脂肪と一緒に保存し発酵させる。  全てのものは循環し、全てに還元される。  日々の中で様々な民話を聞いた。  雪とともにきらめく雪の精、冬の訪れとともに動き出すスノーマン。冬の夜に光る聖なる光。魔力を持つ首。たくさんの女神たちや伝説の地。不死を与える生命の樹の実。永遠の地とその支配者ムーア。  だから私たちも外部で喧伝されたこの村の噂話を伝えた。  この村は神によって守られている。ひょっとしたら強大な魔獣がいるかもしれない。隠れて逃げ込んだナチスの実験場がある。宇宙人が古代遺跡を作り、そこで我々とは全く別の文明を築いている。この村にある伝説と比べても、およそ荒唐無稽なものばかりだ。  時間と共に世界は次第に夜を増す。その不思議な光の移り変わりに、確かに彼らの信じる神の存在を感じた。これもデジタルに動く都会ではすでに失われたものの一つだろう。そうするうちに空に羅紗のようなオーロラが埋め尽くす季節となる。  私はそれら折々の雄大な世界の姿をファインダーに収め続け、村人との会話を記録してゆく。この村では電気がなく、通信機器の持ち込みも禁止されている。私が使えたのはオフラインな旧式のデジカメとたくさんの充電器、手帳だけだった。けれどもその懐かしいスタイルは、これまでの私の仕事になんだかしっくりきたのだ。  結局のところ電気がなくても生きていける。この日々を目に焼き付け、その中で生活する。それがリアルに生きるということではないのだろうか。それがこの壮麗な自然の中では正しいように思われた。  けれどもそろそろ決めなければならない。冬を過ごすかどうかを。 「ノニア、まだ十月というのに既にこれほど寒い。冬に入ればどうやって生活するんだ?」 「それは……お二人がこの村で冬を過ごすのならばいずれ知らされることです」 「けれども引き上げるなら決断の時期だ。直に川は氷り、山を越えることが不可能になる」 「……村長に確認します」
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