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ここは最果てだ。冬は全てが閉ざされる。
だからこれまで、この村の人間がどのように冬を越したのかを知る人間は誰一人居なかった。その真実は固く秘され、明らかにされなかったのだ。だから私はそれを記録に残すためにここを訪れた。
私は私の目的を振り返る。
これまで観測した結果によると、恐らく現在の村の備蓄では村人が冬を越えることはできない。私は予め調べていた。氷河期が始まる前と後での動植物の数を。
氷河期の前より、現在のセイウチやアザラシといった食用する海獣類の数は半数ほどに減っていた。今からペースを上げて大量に狩ればこの冬は越せるとは思う。けれどもそれでは海獣類の次世代が育たない。次の冬には海獣類はさらに数を減らし、村人は今度こそ冬を超すことができなくなる。植物においても同様で、その貯蓄で足りるとは思われなかった。
だから村人が冬を越えるには、何らかの秘密があるはずなのだ。
「バルトロー殿。この村の生活は如何ですか」
「村長様、ここは私のいた都会とは全く違い、毎日が新鮮です。まるで世界に直接触れているようです」
村長は相変わらず柔和な表情を浮かべている。
「世界に、直接?」
「ええ。都会には自然などありません。あったとしても仮想の現実で、人に危険や喜びを与えることはほとんどありません。私はここの生活がとても得難いものだと考えています」
一生過ごすかといえば躊躇はするが、私はこの村の暮らしを気に入ってはいたのだ。
村長は探るように私を見た。そして、冬の間、制約を守るなら滞在を許すと述べた。心の中で小躍りした。
村長の条件は納得する部分もあり、奇妙に感じる部分もあった。けれども私はこの村に来るまでアザラシの狩り方や干し肉の作り方、花冠の作り方など何も知らなかったし、だから私の未だ理解し得ないこの村の冬というものがあると思い、了承した。
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