春の糧

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 一つ、冬の間の食料の管理は全て村に任せること。これはある意味当然だ。食料はただでさえ乏しい。ひもじく苦しい冬であろうけれど、切り詰めれば足りなくなることはないのだろう。もし足りないのなら、私たちを追い出して食い扶持を確保しただろうから。  そうすると、村人全体で有する食料庫のようなものが別にあるのかもしれない。  二つ、冬によって齎される全てを甘受すること。 「甘受? それはどういう意味でしょう」 「そのままの意味です。冬は全てを闇が閉ざし、春が訪れるまでこの地から逃れ出ることはできません。その間の風雪も、寒さも、それが齎す全てを甘受する必要があります。冬将軍があなたの小屋の扉を叩くかも知れませんが、それは運命なのです」  言われてみればそのとおりだ。この村の冬は私の拙い想像より遥かに過酷なのだろう。大寒波と大雪が責め立てるのだ。そしてそれはどうしようもない。この地に残るのであれば、それを耐え忍ぶのは必須条件なのだ。私は頷いた。  三つ、私とリオーネは異なる建物で眠り、顔を合わさぬこと。そして冬は静かに眠り続けること。 「何故です?」 「これは忠告です。必ずしも守る必要はありませんが、そうしなければ、きっとあなたは後悔するでしょう」  そうしなければ、後悔?  けれども私はこの村の冬を撮影にきたのだ。それが目的なのだ。その条件は是認などできなかった。村長はそれを知っていて、その条件だけは不明瞭に緩和されている。  ともあれ、私たちはその条件を受け入れた。そして新しく、2階建ての小屋を借り受けた。冬を越えるための強固な作りの小屋で、積もる雪に備えて2階部分に出入り口がある。  そして十月末に新年を迎える祭りが行われ、盛大な篝火が焚かれた後に冬が来た。  そして私は拍子抜けした。驚き呆れた。全ての期待が裏切られたのだ。この村の真実は私が考えたものとは違う、解禁する価値もないと思われるほど酷く馬鹿馬鹿しいものだった。
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