春の糧

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 私が知った事実。  それは村人全員でコールドスリープに入るのだ。厳密には最先端のものではなさそうだ。型式は見たこともない。けれども都会で生まれたその技術によって、生体活動を著しく抑制する。食料はこれまで貯蔵したものを加工し、点滴と同じような仕組みで体内に注入するのだ。  だから、村人は冬の間は極力ずっと眠っている。家は別々に暮らせども、その代わりに冬の間だけはコールドスリープを介して通話ができるそうだ。  全ての電子機器は持ち込めないはずではなかったのか。  私は騙されたという怒りより、幻滅が先に立っていた。私は信じていたのだ。この村の冬と、生活と、人々を。  そうしてどこからとも無く、その四角いポッドが借りていた部屋に運び込まれた。充電のいらない型で春までここで据え置かれる。その白い筐体を呆然と眺めた。  なんと馬鹿馬鹿しい。私はこんなものを見るためにここに来たのではない。   けれども既に冬によって海や山は閉ざされ、出ていくことも叶わない。だから春が来るまでこの村にとどまり続けるしかないのだ。  私とリオーネは村人が寝静まる間、その冬を眺めた。村人の誰もが眠りに付き、死んだように眠る中で、私とリモーネは定期的にスリープを解除して二人きりで一日中続く夜に起き、ホワイトダストの舞う白い森や樹氷煌めく山々の写真を撮り、惜しげもなくオーロラが降り注ぐ空を眺めた。  確かにこの村自体が美しいことに間違いはなかった。欺瞞に満ちていることを除けば。 「次はいつ起きようかしら」 「どうやらしばらくは吹雪が続きそうだな。また3日ほど後にして様子をみようか」  次の予定を相談していた時だった。突然ガタリという大きな音がした。 「何かしら?」 「そちらの音かい?」 「わからないわ。見てきます」 「私もそうしよう」  通話はコールドスリープ内の機能で行っている。スリープの機械を隔てられているため、外部の音がよく聞こえないのだ。だからどちらから聞こえたのかわからない。  時刻は23時。もう夜も遅い。極夜とはいえ、私たちもこの村の人間も、なるべく時刻そった生活を心がけている。なのに、何だ。  恐る恐るスリープのハッチを開ける。
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