5人が本棚に入れています
本棚に追加
ハッチを開くと、闇が広がっていた。
室内、とはいってもそれほど広くはない家だ。灯りをつけて慎重に見渡す。獣臭い匂いが広がる。コールドスリーブがあるのにつける灯は獣油なのだなというところが妙だと思いながら見回しても、異常はなかった。
外からゴウと吹雪の音が聞こえていたが、耐えられない獣臭さだ。仕方なく僅かに扉をあければその僅かな隙間からも矢のような風雪が部屋の内側に入りこみ、あっという間に室内気温を20度は下げた。
閉めるか躊躇した時、その奥で妙なものを見た気がした。
私は慌てて獣臭い室内に戻り、分厚い防寒着を着込んでカメラを持ち、外に飛び出す。
視界は全て白に染まっている。ホワイトアウトだ。こうなれば何も見えない。けれども私はたしかに先程、その奥で何かがうごめくのが見えたのだ。
数歩歩いて振り返ると、既に小屋の玄関の扉が見えない。慎重に後退り、ドアに張り付く。移動はまずい。2メートルも歩けば、ひょっとしたらもう戻れないかもしれない。それほどの吹雪だ。けれども先ほど見たものが気になっていた。
ほんの僅かな吹雪の切間に、何か巨大なものが動いて見えたのだ。あたかもウィッカーマンのような。なんと言えばいいのかよくわからないが、それはこの土地に、ひどく似合って見えた。コールドスリープなどよりもよほど。
私は扉の前でファインダーを構えた。
そしてその訪れを待った。
そして。
どのくらいの時間が経ったのだろう。私は身を斬るような寒さで朦朧とした意識の中でカメラを下ろした。かぶりを振る。
これ以上は私の体が持たない。
そう思って見下ろせば、この背にした扉は2階の高さにあるにもかかわらず、私の腰の下は雪に埋もれ、露出した顔の表面にはぴきぱきと氷が張っていた。
雪を掻き分けて、なるべく雪を落として室内に戻る。室内計は5度を指していたが、とても暖かく感じた。時刻を見れば午前2時だ。コールドスリープに横たわり、念のためリオーネに小さく話しかけてみたが、返事はなかった。
最初のコメントを投稿しよう!