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僕の手が、誰かを温められる手に染まる。
幼い頃の憧憬は、いつの間にか消え、自分の道の先に何があるのかしか見れなくなった。
そんな中で、温かい手に触れられたことは限りなく幸せだろう。
廃れた古寺にも一日の終わりが訪れ、蜻蛉は赤い空に溶ける。
今は紅く、情熱的な揺らぎを示していたとしても、空には夏、入道雲がいた痕跡なんてない。
変化し続けている人生の中で成長していれば、変わらないことなんてない。
でも確実に、緩やかに流れていく時間もある。
辛い時、逃げたい時、夢を追いかけていた僕は、誰かの駆けるような笑顔に救われた。
風が此処を通った痕跡なんてあろうはずがないのに、空気は存在している。
何故なら、誰かの髪に靡くからだ。
────でも、僕がここにいた痕跡は無い。
風景は誰かが見ていなくても、息をしている。
景色は人のためにある訳では無い。地球本来の姿を人間が勝手に判断し、評価しているだけだ。
それが変わらず存在していたことなんて、痕跡以前に素晴らしいものだ。
それなのに、生きていた痕跡すらない少女の綻ばす微笑みに────惚れた。
それが、生きる意味?

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