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「んっ、…っ、は…っ…」
気が付けばいつの間にかベッドの上に組み伏せられていた。
初めは唇を合わせるだけだったキスもやがて深くなり、お互いの舌を絡め擦り、深く深く激しく求め合う。口端から溢れる唾液など、どうでもいい程に。
「アディ…っ、はぁ、アディ…」
息継ぎの合間に何度も名前を呼ばれ、私の身体に火が灯る。ルートガーの首に回した腕に力を入れて、ピッタリと身体を寄り添わせると、隙間なく重なる互いの身体から熱と鼓動が重なるようだった。
ルートガーの大きな手が、何度も何度も身体を撫で回し往復して、その焦ったい動きに腰が揺れた。
ルートガーが唇を浮かせ、少し触れ合わせたまま熱い吐息を吐いた。
「アディ、腰が揺れてる…気持ちいい…?」
「まっ、またそういう…っ」
「教えて…アディ…」
大きな掌が服の上から腰を撫で胸の膨らみを撫でる。グッと掴まれて強く揉みしだかれると、甘い痺れを感じて背中がしなった。
強く身体を合わせると下腹部に熱い塊を感じ、もちろんそれが何かわからない私ではない。
「ルーは…気持ちいい…?」
そう言って首に回していた腕を解き、ルートガーの熱い塊に掌を寄せるとルートガーの身体が大きく跳ねた。
「ア、アディ…!」
「私にばっかり聞くなんてずるいわ」
「君はそういう…っ」
ルートガーは目元を赤く染めると私の手首を掴んで頭上でひとまとめに縫い留めた。
「駄目だよ、煽らないで」
「どうして?」
「止められなくなる」
「十分止められてないと思うのだけど…」
「これでもすごく我慢してるんだよ」
ルートガーはそう言うと身体を起こして私の上に跨り、じっくりと眺める様に見下ろしてきた。でもその視線は私にはよく見えない。
「ル、ルー…?」
不安になり思わず名前を呼ぶ。
「うん?」
「な、なにしてるの、よく見えないわ」
「君を見てる」
ルートガーはすっと、長い指を胸元の宝石に沿わせ、そのまま首筋を撫でた。身体がびくりと反応し、ルートガーが薄く微笑んだように感じた。
「…やっぱりとても似合うよ、アディ。でも君の瞳の方が何倍も綺麗だ…本物の君の方がずっと綺麗だよ」
「私に買ってくれたの…?」
「そうだよ。これを見た時、真っ先に君を思った。どうしても君に渡したかった」
「ルー…」
手首を留めていた手が緩み、私は腕をルートガーに向かって伸ばした。ルートガーはゆっくりと身体を傾けて私に覆いかぶさり、深く深くキスをする。
「…っ、はぁ…、ルー、ネックレスを取ってくれる…?」
「…いいよ」
ルートガーは私の首の後ろに長い指を這わせ留め具を外す。唇が触れる距離にいるルートガーを見つめながら、イヤリングも外してもらう。
「次は?」
「…まだ言わせるの?」
「そうだよ。だって僕は君のものなんだから」
「そう…じゃあ…」
私はルートガーの隊服の詰襟に指を掛け、ルートガーの唇に息を吹き込んだ。
「…あなたの好きにして」
ドレスのホックを器用にすべて外しドレスとシュミーズを剝ぎ取ると、コルセットに持ち上げられた胸に強く吸い付かれる。
器用に自分の隊服を脱ぎ捨てながら私の脚の間に割り入り脚を高く持ち上げ、ストッキングを履いたままの脚につま先から順にキスを落とす。
ガーターベルトに歯を立てするりと紐を解いて舌先を伸ばし、内腿の柔らかい場所を何度も舐り、時々ちくりと刺激が走った。
ぼんやりとした視界では何をされているのかよく分からず、かえってルートガーの掌や唇、舌に敏感に反応している気がした。
足の付け根を舌先で強く刺激され背中がしなり、その隙間に大きな掌を差し込まれコルセットが抜き取られる。そうして胸を露わにした私の身体に唇を這わせ吸い付き、ルートガーは全身を余すことなく舐めまわしていく。
「アディ…」
大きな掌がやわやわと確かめる様に胸を揉みしだき、谷間に舌を這わせ何度も吸い付く。
熱い舌が頂を強く押し込み、口に含んで激しく弾く。
もう声を抑えられない。指先が頂を掠め舌先で何度も転がされ、聞いたことのない甘ったるい声が溢れるのを抑えられない。
それがルートガーを煽っているのは分かっている。分かっていても今、ルートガーに求められルートガーを求める私には、抑えることが出来なかった。
長い指が脚の付け根を撫で、下着の上から谷間をなぞる。気がつかないうちに濡れそぼったそこに触れ、ルートガーは耳元で満足げに息を吐いた。
「アディ…嫌なことはしたくない。嫌だったり辛かったら言って欲しい」
「そ…そんなの、みんな初めは痛いって言うから大丈夫よ…」
「……え?」
ルートガーの動きが不自然に止まった。
「?、なに…?」
「は、はじめて…??」
「そっ、そうよ、当たり前じゃない…!」
「だって君、あ、アイツは…?」
「え?」
「チャーリー・バーグースは…」
「ち、ちょっと待って!なんでそうなるの!?」
「付き合ってるじゃないか、あんなに毎日のように一緒にいて…」
待って、待って待って!とんでもない誤解もある上になんだか色々正したい事があり過ぎるわ!!
「チャーリーは私の友人よ!今日の夜会で名前を聞いたでしょう?」
「…いや、君を見てたから…」
「チャーリーの名前はチャーリー・ベンティンクよ!バーグースは母方の姓なの!あなたも騎士なら知ってるでしょう?」
「ベンティンク…公爵…?あの家は令嬢しか…」
「そう、そのチャーリー・ベンティンク嬢よ!」
完全にルートガーの活動が止まった。そしてその顔がみるみる赤く染まっていく。
「ぼ、僕はてっきり、君と彼…彼女、が、付き合っているんだと…だから、比べられても恥ずかしくないように…」
「友人よ!それに、仮に私にお付き合いしている人がいたとしたら、私はあなたとこんな事しない!」
「ご、ごめん、アディ…僕は」
「わ、私だってっ、あなたがこれまで触れてきた沢山の女性たちと比べられてるんじゃないかって不安なのに…っ」
ルートガーの胸を叩く。拳を握り締めてもぽこんと跳ね返すその硬い質感の胸は、しっとりと汗ばみほのかに赤く染まっている。
ルートガーが私の手を取りギュッと握った。
「そんなことひとつも思ってない。僕は君しか見えない」
「…っ、私もよ…っ」
いつの間にかぽろりと涙がひとつ溢れた。ルートガーが優しく吸い取り、眦をペロリと舐める。
「アディ…っ、アデライーデ、僕の…」
覆い被さり深いキスを繰り返す。長い指がすでに濡れて役に立たない下着を剥ぎ取り浅く指を出し入れする。その指の動きと同じように舌を出し入れされ、ギュッと瞑った瞼の内側が白くチカチカと明滅した。
「…っ、…あっ!」
背中が仰け反りガクガクと腰が揺れる。そして、だらりと弛緩する手脚。唇を合わせ、私の荒い呼吸すらルートガーは飲み込んで、蒼灰色の瞳をギラギラと揺らめかせ私を覗き込んだ。
「もう離さない…アデライーデ」
身体を起こし互いの間に出来る空間すら淋しい。ルートガーはゆっくりと身体を起こすと私の脚を持ち上げた。
「……ルー、抱き締めて…」
力の入らない腕を持ち上げ彼の腕に触れると、ルートガーはすぐに覆い被さり深くキスをして、私の身体を一息に貫いた。
そこからはもう、あまり記憶がない。
初めはゆっくり、私の様子を見ながらだったルートガーも段々と余裕がなくなり、激しく打ち付け何度も何度も私の奥を穿った。
脚を高く持ち上げられ、肩にかけられ、腰を掴まれ逃げ場などなく。
何度も何度も愛を囁かれ名前を呼ばれれば、不安だった心も溶けていき。
ただひたすらに、ありったけの愛を注がれて、私はずっと欲しかった私のルートガーを手に入れた。
***
「笑いすぎよ、チャーリー」
「ぶっふふっ、だって…っ、ごめん、…くっくっくっ」
図書館で声を堪え身体を揺らして笑うチャーリーを横目に睨む。眼鏡で分からないだろうけど。
「いいわよ、笑えばいいわ」
「いや、ちょっと…君たち紆余曲折だったね…はあ、これが笑わずにいられるかな」
「仕方ないでしょう!色々要因があったんだもの」
「確かにそうだけど。まあ、臆病になるのも仕方ないよね。良かったじゃないか、時が解決してくれたんだね」
「…歳を取ったから良かったのよ」
「年寄りみたいなことを言うね」
「嫁き遅れですから」
「その心配ももうないだろう」
あれからすぐ、ルートガーは私の実家に頭を下げに領地へ戻った。私への婚約の申し入れに行ったのだ。
ルートガーは自分が子爵家の長男であることから反対されるのではと重く考えていたけれど、多分その心配はないと思う。私には他に嫁ぐ先もないのだし、王都で一人で暮らすより、よく知るルートガーと結婚する方が両親も安心するだろう。
「仕事はどうするの?」
「暫くは続けるつもりよ。ルートガーもここでの仕事もあるし、急に生活が変わるようなことはないわ」
「そうか。でももう、今までのように頻繁に会えなくなるかな」
「だとしても、あなたは大切な友人よ」
「ありがとう、君も私の大切な友人だよ」
チャーリーは華やかな笑みを浮かべ、では、と立ち上がる。
「ねえ、チャーリー、あなたもいいことがあったのね?」
その笑顔に話しかけると、珍しく瞳を瞠いて言葉に詰まった。
「何故」
「分かるわよ、眼鏡ももう新しくしたんだし、あなたの顔がよく見えるわ」
「私のことはいいよ」
「駄目よ、ちゃんと聞かせてもらうから」
チャーリーは苦笑して象牙のステッキをくるりと回し、脇に挟んだ。
「ほら、彼がもう直ぐ戻る時間だろう」
「あらそうね、もう行かなきゃ」
立ち上がり台帳をしまう。
もう直ぐ馬を走らせたルートガーが城門に到着する時間。私は彼を出迎えて、彼に抱きつき頬にキスを贈るのだ。
だって彼は、私のものだから。
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