11 宰相んちの次男

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11 宰相んちの次男

 なんだってこんな事になったんだ?! 全てが信じられない出来事ばかりでノイン・ザッハは王宮にある彼専用の執務室で頭を抱えていた。 ××××××××××  彼はこの王国の宰相閣下の次男であり、第2王子であるフレデリックの側近である。  王子より年齢は1つ上ではあるが、彼が学園に入学するのに合わせ自身の入学を1年間遅らせた忠義者でもある。  フレデリック王子は物静かというのも烏滸がましい程全くもって喋らない青年で、表情の変化もなければ感情の機微も感じさせない鉄面皮だったが、ノインは長く共に居たため彼の気持ちは何となく眉毛のちょっとした動きとか、口元の引き攣り具合とかで判断できるようになった。  忍耐強い観察と努力の賜物である。  王子の表情が大きく動く時は、大抵が必要に迫られ動かさざるを得ない状況であることを彼は知っている。  例えば、付き纏うご令嬢達と嫌々ながらも夜会でダンスせざるを得ない時とか、国王陛下の無理難題を引き受ける時とか、王妃に甘味のお遣いを頼まれた時とかである・・・  それ以外の公的な場、学園や王宮内の執務室、騎士団での稽古の時など表情はほぼ統一されていてピクリとも動かない、ある意味筋金入りの無表情さであり、コレでほんとに公爵令嬢と婚姻など大丈夫なのかとコッソリ心配をしているくらいだ。  その無表情王子が何故かハインツ公爵家のご令嬢であるカサブランカの前では、毎回ほんのり甘い表情をしていることに気がついたのは婚約が整った後の交流の為の3回目の茶会に付いて行った時だ。  その日朝からフレデリックにしては緊張をしているな、とは感じていたが公爵家の広大な庭にあるガゼボに通され彼女に花束を渡そうとして、お付きであるノインが抱えていた薔薇の花束を貰い受けようとフレデリックが振り返った時、耳の先が赤く染まっているのに気が付いた。  それ以来そっと2人の成り行きを見守って来た。  それなのに、ああ!   なんだって卒業目前の試験明けの慰労のために開いた夜会で公爵令嬢であるカサブランカを北の離宮へ連行し閉じ込める羽目になったのか?   しかも王子の命令で自分と騎士団長の次男がソレを遂行したのである。 ×××××××××××  全然理解が追いつかないまま事務机の上の書類に目を走らせた。  先程フレデリック付きの侍従が持ってきた書類で、緊急時の印である赤いリボンで巻かれていた物だ。  「・・・ 成る程、そう云う訳ですか」  暫くの間読み耽っていた彼は、そう呟くと徐ろに羽ペンをインク壺に漬け、書類の束を見ながら公的な提出書類として纏め始めた。
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