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12 騎士団長んとこの次男
彼の名はアレン・ジャージルという。
騎士団長を務めるジャージル侯爵の次男であり、第2王子フレデリックの護衛を務める近衛騎士でもある。
第2王子より3歳年上だが歳が近いという理由から護衛として学園にも一緒に通っている。
彼から見た王子は何時も冷静沈着であり、歳に不相応な程の判断力と優れた剣技を授かった天才だった。
但し無表情かつ必要最低限のこと以外は喋らないというおまけ付きだったが、それさえ無ければ非の打ち所のない王子だとアレンは思っていた。
その彼が昨晩の夜会で突如自身の婚約者であるカサブランカ公爵令嬢に対して、聖女を貶めたと断罪しはじめ何故かアレンが北の離宮へと彼女を連れて行く役目を仰せつかるという事態に陥った。
但し夜会前にノインと共に王子に呼び出されて何があっても口出しをしない事とどんな相手も丁寧に対応する事を誓わされていた為、彼女を護送する時もノインにエスコートは任せて後ろをついて行った。
北の離宮の塔の最上階の部屋のベッドに彼女が呆然として座るのを見届けたが、その後ドアの鍵を掛けノインと共にホールへと引き返したので後のことは分からない。
ただ、殿下の指示で昨晩の出来事は参加者全員に前もって箝口令が敷かれていたらしいという事と、聖女プルメリア・ソイル男爵令嬢が殿下と共に王子宮の談話室に入ったらしいという事だけは残っていた護衛達に教えられた。
談話室で何があったのかは知らされておらず、全て極秘情報として取り沙汰されているらしい。
実はアレン自身はその聖女である男爵令嬢を良く思っていなかった。
学園内で様々な男子生徒と噂になっているのを耳にしていたし、妙に王子や自分達に向かって接触してこようとする節があったからだ。昨晩の夜会の時も第2王子の側に侍り、誰にも咎められないことを良いことに彼の袖や腕にベタベタと触れていた。
まぁ王子はそれに対していつもの無表情を貫いていたが・・・
昨日の夜会以降、極力何も言わない様に互いに努めてはいるが護衛騎士同士がどうも居心地が悪い状態になっているのを肌で感じる――
王都で地位の低い女性が聖女となり、彼女を貶めた悪役令嬢が断罪されて聖女と王子が真実の愛に目覚めて結ばれるという夢物語が流行っているらしく、まるで昨日の出来事がそうだった様に感じられたようで、
『殿下はカサブランカ嬢を婚約破棄し、プルメリア嬢を娶るのではないか』
という口さがない噂が女官の間で囁かれているという。
だが公爵令嬢との婚姻は王国存続のために政略的に必要として第2王子殿下自身が主張して成り立った婚約だ。その大事な婚約が覆るようなことは滅多なことでは起こらないはずなのだ・・・
そう思いながらも不安に駆られるのが嫌で休憩中にも関わらず素振りをしていると、宰相の息子であるノインが稽古場の出入り口から自分に向かって手招きをしているのがアレンの目に入った――
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