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03
その後、老女に村を簡単に案内してもらい、フリーダはここで初めて彼女がこの村の村長だと知る。
いつまでも村長自ら案内してもらい続けるのも悪いと思ったフリーダは、ここから自分たちだけで大丈夫だと伝えた。
ドラコも同じ意見のようで、彼女の肩からコクコクと頷いてる。
幸い村はそこまで大きくない。
案内がなくても問題はないはずだ。
今日は挨拶ついでに食料を買いに来たと言い、フリーダは、頭を下げて老女の前から立ち去る。
「わざわざありがとうございました。では、ここで失礼しますね」
「あ、ちょっとフリーダさん? 話し忘れていたことが――」
去っていくフリーダの背中からは村長の声が聞こえていたが、彼女はただ手を振るだけで歩いていってしまった。
何か言い忘れていたことでもあったのだろうとは思ったが、また今度聞けばいいと、フリーダたちは目当てのものを買いに店を探す。
村の中は活気で溢れていた。
とても小さな村とは思えないほど店も多く、屋台もたくさん目に入り、店員が道行く人に快活な声をかけている。
このはつらつとした雰囲気は、王都の城下町にも劣らないものだ。
そんな村の中で、フリーダは武器屋で足を止めて樽に入っていた剣を手に取った。
そして、試しに一振りし、刃を見つめる。
フリーダは、自分が城塞警備の仕事をしていたときに支給されていたものよりも品が良いことに気がついた。
「すばらしい出来だけど……こんな小さな村で、良質な剣を求める人間なんているの?」
不可解そうに小首を傾げるフリーダを見て、ドラコも彼女と同じように小さく首を回していた。
それから野菜や果物にパン、そして魚と肉を買い込み、求めていたものを購入したフリーダたちは村を出ることに。
丸太の小屋へとの帰り道で、ドラコのお腹がグゥ~となると、フリーダは買った果物を食べさせ、自分もリンゴを一つかじった。
「うん! 想像していた通りだな、ドラコ」
剣も良質だったが、購入した果実も実にすばらしく、フリーダとドラコはジューシーで肉厚な果肉に病みつきになっていた。
これなら他の食材も期待できる。
ライから事前にここらの地域の食材はすべて美味しいと聞いていたが、どうやら嘘ではないようだ。
そう思い、フリーダたちが顔をほころばせていると、目の前に見える草木の中から物音がしてきた。
フリーダは音のするほうに視線を向けた。
すると、草木の中から魔獣ワイルド·ベアが現れる。
ワイルド·ベアはその名でわかるように、魔獣ながら哺乳綱食肉目クマ科の動物と同じ見た目だが、その爪や牙は野生動物とは比べものにならない鋭く硬い。
さらにその身体は刃物にも強く、並みの冒険者が出くわしたらまず勝機はないだろう。
さらに今のフリーダは武器を持っていない。
仕事を辞めたときに、金銭に換えられるものはすべて売り払ったのだ。
せいぜい武器といえば、丸太小屋に置いてきた薪割り用の斧や、包丁代わりにしているナイフくらいだった。
ワイルド·ベアはゆっくりとフリーダたちに近づいていき、四つ這いから立ち上がって咆哮。
森の中に地響きのような吠え声が轟く。
このままフリーダたちは、ワイルド·ベアに食われてしまうかと思われたが――。
「なんだクマか」
一言発した後に、フリーダのヘッドバットがワイルド·ベアの額を打ち抜いた。
白髪交じりの黒髪が揺れ、その一撃で魔獣は完全に沈黙。
その場でだらしなくよだれを垂らしてのびている。
獰猛で凶暴な魔獣は、おそらく自分に何が起こったのかを理解する前にやられてしまった。
足元でピクピクと身を震わせているワイルド·ベアを放って、フリーダとドラコは何事もなく丸太小屋へ戻った。
「あの無駄に強固な柵や門は、野生動物に対してだったみたいだね。でも、たかがクマぐらいで大袈裟だよね、ドラコ」
フリーダはドラコと昼食を取りながら、なぜあんな小さな村が、あそこまで侵入者を阻むものになっていたのかを話していた。
それは野生動物から村人を守るためだったと彼女は理解したが、それは見当違い。
実は、ライがフリーダに売ったこの丸太小屋の周辺地域には凶悪な魔獣が多く、誰も住みたがらない場所だったのだ。
つまりは村にあった柵や門は、魔獣から村を守るためのものである(まあ、ある意味ではフリーダの解釈も間違っていないのだが)。
村人たちは自分の生まれ故郷ということで、この土地を離れたりはしないが、この地域に移住してきた者のすべてがすぐに逃げ出している。
その理由は、せっかく大自然の中でのんびりとした暮らしをしたいというのに、そこら中に魔獣がいるなんて話にならないからだ。
「そうだ、野生動物がいるなら狩りができるね。近いうちにドラコにクマ鍋を食べさせてあげる」
だが、これまで魔界へと繋がる大穴がある地域――ジュデッカの城塞警備の仕事に就いていたフリーダにとって、魔獣など野生動物と変わらないようだ。
ドラコも同じ気持ちなのだろう。
子竜はクマ鍋と聞くと、その翼をパタパタと動かして嬉しそうに鳴いた。
フリーダはそんなドラコの頭を撫で、これからの生活に胸を躍らせるのだった。
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