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とりあえずフリーダは、ユースティアの反対を押し切ってライを家の中へと入れた。 ホッとした様子で丸太小屋に入ったライを、ユースティアの冷たい視線とドラコの威嚇するような唸り声が迎える。 得意のおどけた態度で乗り切ろうとする彼だったが、女騎士と子竜の機嫌が直ることはなかった。 それでも元から歓迎されていないことはわかっていたようで、ライは諦め顔でソファーに腰を下ろす。 「いやー、てっきり丸太小屋の件で怒っていると思ったけど。さすがフリーダは心が広いねぇ」 「丸太小屋の件? なんだそれは。私はここが気に入っているけど」 「えッ!? ハハハ! ほらあれだよ! やっぱり不便なとこだったし、こんな物件を紹介して後で嫌われてもしょうがなッ!?」 ライが言葉を言い切る前に、彼の喉元に刃が突きつけられた。 ユースティアが急に剣を抜いたのだ。 さらにライの眼前には、今にも火を吐かんばかりにいきり立ったドラコが待ち構えている。 「ちょっと……これはどういうことかなぁ。僕が何かしたなら謝るけどぉ」 「さっきの丸太小屋の話、もう少し詳しく話してもらおうか」 「詳しくって……。フリーダが気に入ってるんならもういいじゃないか。それに、今さら話すようなことは何もな――ッ!?」 再びライの言葉を遮るように、ユースティアの剣が喉に触れた。 冷たい金属の感触が伝わり、さらに目の前にいたドラゴが、爪を立ててライの顔を撫で始める。 その様子を見ていたフリーダは、ユースティアとドラコに止めるように言うと、ライに向かって口を開く。 「話したほうがいいよ。ここで死にたくなかったらね。まあ、殺すのは私じゃなくて、最良騎士か可愛い子竜だけど」 観念したライは、口にしていた丸太の小屋の件のことを話し始めた。 実は今フリーダとドラコが暮らしているこの地域は、魔獣が多くいるところで、とても人が住めるようではない。 そんなことも知らずに、大自然に囲まれたゆったりとした生活に憧れ(フリーダもそうだ)、この地域にやって来た者らは、今のところすべて出ていってしまっている状態だったと。 森に出ればワイルド·ベアが現れ、湖へ水を汲みに行けばキラー·アリゲーターに襲われ、せっかく耕した畑はマウンテン·ボアに荒らされる。 正直、命がいくつあっても足りない綱渡りのような暮らしだ。 誰でも嫌になって逃げ出すのも当然。 ここへ来た多くの者たちの目的が、のんびりと過ごしながら人生を楽しみ、生活の質を高めたかった人間ばかりなのだから。 家の外が魔獣だらけでは、生活の質どころか、ゆっくりと過ごすことなどできやしなかったのだ。 そういう事情から、この土地の権利を格安で手に入れたライは、何も知らないフリーダに売りつけたというわけだった。 ちなみに、フリーダが綺麗にして使っている丸太小屋は、前にここへ来た者が業者に依頼して作ってもらったもので、ライが勝手に自分のものにしている。 「それでも元宮廷魔術師か、最低だな」 ユースティアがライにまるで汚物でも見るような視線を向け、吐き捨てるように言うと、ドラゴも同意するように鳴いていた。 そして彼女は、喉に突きつけていた剣を動かし、ライが「ひぃ!」と情けない悲鳴をあげた。 今にも皮膚を切り裂き、血を噴き出すところで、フリーダがユースティアを止める。 なぜ止めるんだと言わんばかりのユースティアの眼差しに対し、フリーダは答えた。 「勘弁してやってよ、ユースティア。こいつがこんなのなのはいつものことだし、私は気にしてないって」 「しかし、これは詐欺罪だぞ。もし売った相手がおまえじゃなかったら、最悪死人が出ていた可能性だってある」 「でも、誰も死ななかった。まあ、ちゃんと物件を確認しなかった私も悪いし。ライも多分だけど、私なら大丈夫だと思ってここを紹介したんだと思うしね」 フリーダの説得を聞いても、ユースティアの目はその鋭さを失っていなかった。 その両目は、「こいつはここで殺すべきだ」と語っているようだった。 それでもフリーダは話を続ける。 「それに、ユースティアとドラコに脅されてこいつも少しは()りたでしょ」 「……やはり、まだ好きなのか?」 「はぁ? なに言ってんの。そんな気持ちはもう微塵(みじん)もないよ」 ポツリと呟いたユースティアには、フリーダの言葉は耳に入っていなさそうだった。 彼女はガタガタと身を震わせると、どこを見ているのわからない状態で話をし出す。 「ここで殺しておかないと、またフリーダがこいつの毒牙にかかってしまう……。もう二度とあのときのような悲しくて辛い想いはしたくない……。断固阻止しなければ……」 「おーい、聞いてるか? って、ヤバい、また病み始めちゃったよ……」 思い込むとすぐに命を奪いたがるのは(それは自分も他人も)、ユースティアの悪癖だ。 何か彼女の心の奥にあるものに触れてしまったのだろう。 ユースティアは、先ほど丸太小屋の外で斬りかかってきたときと同じ顔になっていた。 「……もしかして、私が知らないだけで、二人はまだ付き合っているのか……? そうなるとやはり二人を殺して私も死ぬしか……」 「そこまで。私はこいつとはとっくに切れてるし、復縁も絶対にないから。はい、この話はもうここで終わり! それじゃ次。ライ、あんたが私を頼ってきた理由だけど」
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