07

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――村の強固な柵を見上げ、男が笑みを浮かべていた。 獅子の(たてがみ)のような髪型をし、開いた口から見える尖った歯が特徴的な男は、周囲に立っている者たちへと声をかける。 「ここか、奴が逃げてきたってところは?」 周囲にいた集団の中から代表者が一人コクッと頷いた。 ライ·ファブリッションがこの地域に逃げて来たことを確認したと言葉を続け、話を聞いた獅子のような男はその笑みを歪める。 男の名はレオ。 最近王都を騒がせていたブルータス旅団の幹部の一人だ。 彼らはライに騙されて、団長を捕らえられてしまったブルータス旅団の生き残りだった。 男たちは懸賞金欲しさに自分たちを売ったライを追って、わざわざ彼が逃げ込んだ辺境までやって来ていた。 借りは恩だろうが恨みだろうが必ず返す。 それがブルータス旅団の流儀だ。 団長が捕まる理由になった男を、彼らは絶対に許しはしない。 「落とすのが難しそうだが、まあ所詮は柵と言っても木造だからな。やりようはある」 レオはそう言うと、配下の者たちに指示を出した。 隠れているのなら嫌でも出て来るようにしてやればいいと、歪んだ笑みをそのままに。 「いいか野郎ども。舐められたまま逃がすわけにはいかねぇぞ。ここら辺一帯を焼け野原にしてでも、必ず奴を見つけ出せ!」 ――ユースティアを落ち着かせ、ライから事情を聞いたフリーダは、呆れて何も言えなくなっていた。 彼がとある事情からブルータス旅団の生き残りに追われていることは理解したが、ならばどうして自分たちのところに来たのだと、開いた口が塞がらなくなっている。 助けを求めるなら王都の軍にでも泣きつけばいいだろうと思いながら、必死に助けてくれと言うライに冷たい視線を送っていた。 そんなフリーダの言いたかったことを、ユースティアが代わりに口にする。 「そこでどうしてフリーダのところに来るんだ? はッ!? まさかこれをきっかけにやり直そうとしているのだな!? そんなことは現恋人である私が許さんぞ! 元恋人が現恋人に敵うと思うな!」 「おーい、なんかいつの間にか恋人になってるぞ。話がこじれるから止めろ」 再び取り乱したユースティアを制し、フリーダがライに訊ねた。 そのブルータス旅団の生き残りは、すでにここを嗅ぎ当てているのか。 もしそうならばこちらも備えをしておかねばいけないと、フリーダは落ち着いた様子で言った。 「そう言ってくれると思ってたよ。やっぱフリーダは頼りになる!」 「調子に乗るなよ。すべて片付いたら、丸太小屋の件も含めて反省してもらうからな。覚悟してろ」 フリーダは喜ぶライに釘を刺すと、早速動き出した。 しかし、現在ここに武器はない。 全部ライから土地と丸太小屋を買うために売り払ってしまっている状態だ。 せいぜい薪割用の斧や料理で使うナイフくらいだが、ないよりはマシだと、それらを身につける。 ドラコもフリーダがやる気になったことを見て、彼女が戦うなら自分も頑張ると鳴き声を張り上げていた。 「私は休暇でここへ来たんだが……。しょうがないな」 「うん? もしかして手伝ってくれるの、ユースティア?」 「当たり前だろう。こいつを守るためというのは気に食わんが、ブルータス旅団の生き残りと聞いたら、騎士である私がじっとしているわけにはいかないからな」 「相変わらずだね、あんたは。でも助かるよ。ありがとう」 「現恋人として当然のことだ」 「まだ言ってる……。まあ、いいけどさ……」 王都でも最良騎士であるユースティアが手を貸してくれるなら、これほど心強いことはない。 何しろ彼女がブルータス旅団の団長を捕らえたのだ。 たとえ人数は少なくても、剣も魔法も使えるユースティアが加われば作戦を立てて迎え撃つこともできる。 「それじゃ私とユースティアが前に出て、ドラコが援護でいいか。それと当然ライは盾にするとして」 「ああ、そうだな。無償で手を貸すのだ。肉の壁になってもらわねば気が晴れん」 「ちょっとそれじゃ死んじゃうだろ!? 盾になんてされたら助けを求めに来た意味がないじゃないか! そもそも僕は前に出て戦うタイプじゃないって、二人ともよく知ってるだろ!?」 フリーダとユースティアがさも当然とばかりにライを盾にする作戦を立てると、彼が声を張り上げた。 だが、フリーダは冷たく言い返す。 「人のスローライフを邪魔しておいて、自分だけ何もしないで済むと思ってるの。いいから私の言う通りにしろ。なあに、盾にされたくらいで死にはしないよ……多分」 「最後の言葉が不安を(あお)るんだけど……。はあ、まあしょうがない。僕も戦うかぁ……」 今さら何を言っているのだと言いたそうに、ドラコがライの頭を小突いた。 まさかフリーダたちに全部任せるつもりだったのかと、ドラコは彼を小突きながらフリーダに向かって鳴いている。 その声は「やはりこいつは見捨てるべきでは?」と言っているようだったが、フリーダは呆れながらも微笑みを返すだけだった。 そんな空気の中、子竜に小突かれていたライがふと窓から外を見ると――。 「ちょっとみんな! 外に火の手が上がってるよ!」
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