09

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怒りに激しく顔を歪めるレオ。 彼が握った剣を震わせ、歯を食い縛っていると、そこへ村人の避難を終えたドラコとライが現れ、さらに旅団の男たちを片付けたユースティアも駆けつけてきた。 すっかり囲まれたレオだったが、なぜかいきなり歪めた顔をそのままに、肩を揺らし始める。 「フフフ、フッハハハ! これで勝ったつもりかよ!」 「負け惜しみか。もうおまえの仲間はいないぞ。一人で何ができる」 「火事も消したしね。逃げ道も塞がれてよくそんなこと言えるもんだ」 レオの言葉に、ユースティアとライが呆れ、ドラコも同意するように鳴いていた。 だが、それでも獅子の(たてがみ)のような髪型をした男の笑みは崩れない。 絶体絶命の状況だというのに、獅子牙の異名で呼ばれる男はまだ戦意を失っていなかった。 レオは雨で乱れた鬣のような髪を手で直すと、何か水晶のようなものを手に取った。 そして、レオがそれを思いっきり地面に叩きつけると、足下から蜘蛛の巣のような糸が張り巡り、フリーダたちを縛り上げる。 何かの魔導具か? それとも複数の相手を同時に拘束し、身動きできなくする技か? ともかくその場にいたレオ以外の人物の全身を黒い糸のようなものが絡みつき、動きを封じられてしまう。 「奥の手は最後まで取っておくもんだろ!? ブルータス旅団を舐めるんじゃねぇよ!」 レオは勝ち誇ったように叫ぶと、剣を構えフリーダへと詰め寄った。 不味い。 このままではフリーダが殺される。 ユースティアとライは魔法を唱えようとしたが、どうしても魔力を発動させることができない。 ドラコも火を吐いて身体を縛る糸を解こうとしたが、口を封じられてしまい、鳴くことさえできなくされていた。 「おい、白髪(しらが)女。さっきの言葉をそのまま返すぜ。運がなかったな。おまえたちは負けるぞ!」 「よくわからないけど、どうやら魔力を封じる糸か。しかも生半可な力では切れそうもない」 「その通りだよ。たかが女が、ブルータス旅団(オレら)に手を出したことを後悔してももう遅い。ここで死ねぇぇぇッ!」 剣が振り落とされた。 フリーダは無惨に斬り殺されるかと思われたが、ドラコもユースティアもライも笑みを浮かべながら思う。 おまえじゃ無理と。 次の瞬間だった。 フリーダは全身に絡みつく糸を強引に引き千切り、すでに攻撃態勢に入っていたレオの胴体を斬り裂く。 「ガハッ! バカな……。なんでこいつを破れるんだ……?」 信じられないといった表情で吹き飛ばされたレオは、地面に大の字に倒れると、そのまま意識を失った。 フリーダは、倒れたレオを見下ろして言う。 「生憎(あいにく)だけど、ジュデッカでは通じないだろうね。こんなもんじゃ、サイクロプス一匹も拘束できない」 ――後日。 レオたちブルータス旅団は、ユースティアが呼び寄せた王都の軍隊に連れて行かれた。 焼かれてしまった村の修繕費用は、旅団が持っていた金品から支払われ、その間はフリーダたちが村を警護し、魔獣たちを近寄らせなかった。 「はあ、やっとゆっくりできるな、ドラコ」 それから村の修繕が終わり、ようやくフリーダとドラコは丸太小屋へ帰ることができた。 警護や修繕作業を手伝うために、ずっと村に泊まっていたので久しぶりの我が家だ。 ユースティアの休暇も終わって王都へと戻り、ライのほうはいつの間にか姿を消していたのもあって、これでまた子竜との静かな生活に戻れる。 そう彼女は思っていたのだが――。 「おーい、フリーダ。私だ、ユースティアだ」 なぜかユースティアが丸太小屋を訪ねてきた。 フリーダは渋々彼女を中に入れて話を聞く。 なんでも今回のブルータス旅団の生き残りを捕らえた功績で、フリーダを王都直轄の警備隊長として迎えたいということになったようだ。 「よかったな、フリーダ。いやいや、私も鼻が高いぞ。これでまた昔のように一緒に肩を並べられるな」 まるで自分のことのように喜ぶユースティアを見て、フリーダは呆れるしかなかった。 あれほどここで静かに暮らしたい、ゆっくりと過ごしたいと言ったのに。 この王都で指折りの最良騎士は、人の説明を聞いていたのだろうかと、その話はなかったことにしてほしいと返事をした。 当然、納得のできないユースティアはフリーダへと掴みかかる。 「なぜだ!? 王都の勤務だぞ! ジュデッカとは違って職場環境もいいんだぞ!? 給料だって上がるし、こんな辺境で暮らす必要なんてないだろう!?」 「もうウンザリなんだよ、宮仕えは。それとあんたには何度も言っただろう? 私はここの生活が気に入ってるってさ」 「ウン、ザリ……。それは私のことか!? おまえにそんなこと言われたら一緒に死ぬしかないじゃないか!」 「なんでそうなるんだよ!? だからちゃんと人の話を聞けって!」 勘違いしてフリーダと心中しようと暴れるユースティア。 丸太小屋の中がドタバタとしているとき、外から男の声が聞こえてきた。 「フリーダ、僕だ! ライだよ! すまないけど中に入れてくれ!」 これはデジャヴか。 以前と全く同じセリフを聞いたフリーダは、暴れるユースティアを押さえ込みながら何があったかを訊ねると、ライが慌てた様子で声を返してくる。 「魔王軍のお宝を盗んだせいで命を狙われてるんだよ! 頼れるのはフリーダしかいないんだ! お願いだよ、また匿ってくれ!」 話を聞いたフリーダは、「またか」と思うと、聞こえる声をすべてを遮断した。 押さえ込んでいるユースティアは暴れ続け、ライは外から叫んでくるが、何も聞こえなかったことにしたいと石のように固まる。 「離せフリーダ! 私はおまえと死ぬ! 死んでやるぅぅぅ!」 「中に入れてくれフリーダ! じゃないと僕は殺されちゃうよぉぉぉ!」 固まったフリーダと二人の物騒な喚き声を聞き、ドラコはため息を吐きながら両手を上げ、ただ首を左右に振って思う。 誰もいない未開の地でも行かない限り、一生静かになんて暮らせないのではないかと。 了
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