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頭を耕せ
さて…どうしようか。早速書き始めようかというところで、すでに行き詰ってしまっている。うーむ…私の頭がこれほど凝り固まっているとは想定外だった。
「そうだ、トイレに行こう。」
行き詰った時の私のルーティンだ。トイレという場所は身近で簡単に一人になることができる唯一の場所といっても過言ではないだろう。家、学校、職場でも自分の世界に入り込みたいときは重宝している、言わば私のユートピアだ。いや…だったが正しい。
「暑い!!」
トイレに入って10秒、私は思い出した。そんなユートピアも夏になると地獄になることを。トイレから出た瞬間、30度を超える気温の中で私は思わず涼しい!と口にしてしまっていた。サウナを利用する人々はこのような解放感を求めて利用しているのだろうか。そんなことを考えながら、再びパソコンの前に座った。
「おい、起きろ。」
眠ってしまっていたパソコンは、たった一度ボタンを押すだけで素早く目を覚ました。私とは違い随分と寝起きの良い奴だ。
「…」
せっかく起こしたというのに画面とにらめっこするだけで手が進まない。結局、再びパソコンが寝落ちしてしまい画面は暗転した。
「(まぁ、何度も起こすのはかわいそうだし…)」
適当な理由をつけ、私はソファに飛び込んだ。
話が思いつかない…何かアイデアや面白い話は転がっていないのだろうか。
昔は毎日息をしているだけで色々なアイデアが生まれた。格好良い言葉は武器や技になり、面白い出来事はそのまま物語として昇華された。…懐かしい記憶だ。
気が付けば携帯を触っていた。携帯はアイデアの宝庫である。いや、正確にはSNSだろうか?なんにせよ、携帯だけはいつまでも変わらず私と共にあったのだ、こいつほど私の好みや興味のあることを知るものはいない。
結局、アイデアは思いつかないまま今に至る。アイデアをくれるはずの携帯は、寧ろ私の視野を狭めるだけということに今気が付いた。…これで何度目だろうか。
ふと、私の頭に疑問が生まれた。
「今日…本当に頭使ったのか?」
もちろん、勉強や行動には頭を使った。しかし、"この作品を書くため"に頭を使った記憶はない。ただ『何を書こうか』ということが漠然と頭に存在していただけだった。
広大なアイデアの畑をボーッと眺めているだけで、それは頭を使ったことに入るのか?種も蒔かず、水もやらずに果たしてそこにアイデアは生えてくるのだろうか?答えは明確だ。それに私の凝り固まった頭に存在するアイデアの畑など畑と呼べないだろう。
さて、ついにアイデアが湧かない原因を突き止めた。幼いころのように柔軟な思考を生み出すためには、ここを何とかしなくてはいけない。
「…よし!」
そう意気込み、私は眠りについた。
今日は鍬を持ったのだ。…十分だろう。
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