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賢く怠惰な
熱い夏場に切っても切り離せないものとは何だろうか?アイス、海、エアコン…人それぞれ意見はあるだろうが、私は間違いなく扇風機と答えるだろう。
というのも、最近ハンディ扇風機というものを手に入れたのだ。持ち運びもでき、ケーブルすら必要ないというこいつは私の夏の概念…は変えなかったが、去年に比べ明らかに活動できる範囲、時間を増やしたのだ。…えーっと、この先は―
「なぁ。」
…うーむ、どういった展開にしようか。適当に選んだテーマはやはりだめだったのか―
「おい!!」
「だーーー!!うるっせぇっての!!!」
何度も思考を遮ってくる声に俺はついに叫んだ。瞬間的に現れる静寂とハンディ扇風機の優しい風が憤った俺をすぐに冷静に戻してくれた。大きく深呼吸をすると、再び机に向き直った。
「…なんだよ。」
「単純に考えてさ、一枚の板が回転してるだけで涼しいって意味わからなくない?」
視線を動かさずに聞くと、何とも遠慮のない様子で質問が返ってきた。くだらない質問に思わずため息が出る。
「はぁ…五枚の羽がこう…いい感じに風を送れる感じになってる…?んだよ。」
我ながら語彙力のなさを痛いほど感じる説明だったが、まぁ分からなくもないだろう。さてと、こっちに集中しないとな。
「五枚?羽?何のことだよ?扇風機は一枚の丸い板が風を送ってきているんじゃないのか?」
「はぁ!?」
まさかの質問に椅子をぐるりと回し振り返った。どうやら本気でそう思っているらしく、不憫に感じた俺は『羽が回って丸い板に見える』ということをじっくりと教えた。しかし、どうしても納得しない様子で今度は漫画を持ってきた。
「これ、ほらここ!扇風機を止めたシーンの次。丸い板が描かれてるだけじゃないか!」
何を出されるかと思えば…。
「これは!漫画の作者さんが手間を省くためにわざとそうしてるんだよ!賢い省略さ!」
その言葉にどうやら納得したらしく、5歳の頃の俺はうーむと一つ唸って見せると
「じゃあ、この世界を創った人…神様は賢いけど、面倒くさがりだったんだね。」
という言葉を残し、その姿を消した。
活発に動いていたモーターの音が切れたことで、私は現実世界に引き戻された。どうやらハンディ扇風機の充電が切れてしまったらしい。
「…暑い。」
さて、そろそろクーラーでもかけますか…。そう考え、立ち上がると同時に充電しようとハンディ扇風機を手に取った。
「そういえば…数えたことなかったな。」
羽は六枚だった。
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