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 あこがれの大都会、東京! 都会は刺激的なモノがたくさんあるし、ヒトだって洒落てて個性的で愉快な人たちばかり! しかも人数がとにかく多いぶん、出会いの数も桁違いで、その結果、なんと……ついに俺にも彼女ができました!  いえーい!  まるで新しい世界に生まれ変わったような気分……そうさ! これまでのクソ田舎での日々なんて、プロローグに過ぎなかったんだ! 俺の人生は、ここから始まるんだ!  ――などという感情は、半月も経たないうちに崩れ去った。田舎で得られる断片的な情報をもとに、自身の器を超えて肥大化し続けた「都会へのあこがれ」という幻想は、大学デビューからごくわずかの間に、轟音と共に爆発四散したのだった。  テレビやネットを通して見るだけでは気付かなかった現実。憧れていたキラキラ輝く世界を構築している人たちも、結局自分と変わらない等身大の人間だったという事実。上京したての興奮が一段落してしまうと、あれほど輝いて見えた都会の風景も、どうにもごみごみしていて息苦しいばかりのガラクタの山に見えてしまうし、はじめてできた彼女もよくよく話を聞いてみればただのマルチ商法の勧誘員、つまるところ広義の詐欺師でしかなかった。  そこで、あーそっか都会もクソ田舎と大差ねーんだなぁマジでやってらんねーぜハハハ、と笑い飛ばせるような性格なら良かったのだが、俺は見事に落ち込んだ。特に俺が彼女だと思っていた詐欺師の女の態度の豹変っぷりが、俺のガラスのハートを強かにぶん殴り、それはもう見事に粉砕してくれやがっていた。  というわけで、俺は四月半ばにして一足早い五月病を患うはめになったのである。  ああ、こんなところで流行の先取りなんて、したくなかったのに!  ベッドに一人潜り込み、シーツをかぶってガタガタ震えながら子供のように泣きじゃくる時間が増えた。ふらふらと大学に行って、全く頭に入ってこない授業を受け、気付けばいつの間にやら部屋に帰って泣いている自分がいる。  やがて毎晩涙に暮れることにも疲れたころ、俺はただ部屋と大学とを往復するだけの無味乾燥な生活を繰り返す抜け殻と化していた。ほとんど、動く屍体(リビングデッド)だった。  そんな日々の中、突如として現れたのだ。  座敷童を名乗る、奇妙な同居人が。
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