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四
家に帰ると、座敷童がいる。正確に言えば、いたり、いなかったりする。そんな生活にも、気付けばいつの間にか慣れてしまっていた。人間の適応力、順応力というものも、なかなか侮れないらしい。
「ただいま」
ボロアパートの二階。一人暮らしの部屋だというのに、開ける際の「ただいま」がすっかり習慣になっていた。当たり前になった同居人のおかげで、何も感じずに繰り返すだけだった日々に、今ではほんのりと色が戻りつつある……ような気がする。
「ぬぬぬぬぬ」
今日は座敷童がいる日だった。いつも通りのTシャツ一枚の姿で、ローテーブルの上に置かれたリモコンに向かって両手を突き出し、なにやら奇っ怪なうなり声をあげている。
ちなみに以前本人から聞いた話だが、姿が見えないときでも、座敷童はこの部屋の中にずっといるらしい。
「何やってんだ」
「あ、おかえりー」
「ただいま。……なんの遊びだ?」
「遊んでたんじゃないよ!」
座敷童は俺に振り向いて、ぷっくりと頬を膨らませた。
「ボクはテレビが見たかったのに、うんともすんとも言わないんだ、こいつ」
そう言った座敷童が、リモコンに手をのばす。掴んで持ち上げて、ぷらぷらと揺らした。
「なにしろボク、ふだんは実体ないからさ」
「菓子の袋は持てていただろう」
「おまえがいるときだけは大丈夫なんだよ。ほら」
座敷童の手が、リモコンの電源ボタンを押し込んだ。真っ暗だった画面に、ぱっと光が灯る。
「今は押せる」
「俺がいないと押せないのか」
「そうなんだよね。ボクがもっとすごい大妖怪だったら、おまえのいない間だって、なーんでもやりたいほうだいなのになぁ」
「……それは、勘弁してもらいたいな」
電気代の請求金額が、えらいことになりそうだ。
「というかお前、やっぱり妖怪なのか」
「んー……まあね。たぶん、そうなんだと思うよ」
「味だけ食うしな」
「にしし」
座敷童は、歯を見せて笑った。
「なぁなぁ、今日のおやつはなにー?」
「暴君ハ○ネロ」
「……なんだか不穏な名前だなぁ」
座敷童は不安げに、少しだけ眉根を寄せた。
余談だが、意外にも激辛スナック菓子はこいつの舌に合ったらしい。
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