価値のあるくだらない記憶

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「なあ」と泥棒が番人に声を掛ける。そして、その手に持ったままの本をじっと見た。 「“ラーメン屋でバイト中に声が裏返った記憶”って、めっちゃ、くだらなくないか?」 「……たしかに」 「くだらないよな?」 「……くだらない」  先程まで、敵同士だった二人の意見が一致した。  番人は小声で「ラーメン屋でバイト中に声が裏返った記憶、声が裏返った記憶……」と繰り返している。 そして、「……くだらないよね?」と泥棒に尋ねた。 「かなりくだらない」即答する泥棒。 「今まで全然気付かなかった……なんか、すごくくだらなく思えてきた」 「あ、いや、ごめん、そういうつもりではないんだよ」  泥棒は慌ててそう言ったが、番人には届いていない。  彼は今、突然突きつけられた、自分が守ってきたもののくだらなさ、そしてそこから導き出される、自分の仕事のくだらなさに愕然とし、俯いている。 「いや、あの、俺は、別にあんたの仕事がくだらないって言っている訳じゃなくてだな……」泥棒のフォローになっていないフォローを遮り、「いや」と番人は声を上げる。 「いいんだよ!逆に、君のおかげだ、ありがとう」  全てが吹っ切れたような番人。
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