短編 できる限りミステリー

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ある争い 「もうマジで信じらんねえよ」 また始まった。功太(こうた)の奴がこう言う時ってのは大体ツイッターの話だ。 それでツイッターであった嫌なことやそんなことを俺にぶちまけてくるんだよな~。 「てかさ、そういうこと言う!? 普通、言わねえよなぁ、なぁ!!! な聞いてっか、尚人(なおと)!!」  頭が悪いことを言っている。何が悪いかはこれから言うことにする。 「あのさぁ、君さぁ……主語が無いから何話しているか分からねえんだわ」 「だからさぁ、あいつってホントさぁ、まじであいつってさぁ!!」 「いやそのアイツって誰?」 「ゾロゾロアのことに決まってんじゃん」  ……誰? 「ツイッター内にいただろ俺に噛みついてきた奴だよ!!」 「あ、ああ~」  そう言われて気付いた。そうか、あいつか、あいつのことか。  ゾロゾロア あくまで俺の感覚だろうか、めちゃくちゃ格好良い名前をしているがその実態はあまり良くない者だということはこの間のスペースで分かった。  ツイッターには、今『スペース』という物がある。 『スペース』というのは、ツイッター内で話をすることができる場のことを言う。多分。  まあ、ざっと言えばチャットみたいなものだ。  そしてスペースを開いた者を『ホスト』として自由に喋ったり歌ったり、何かの楽器を弾いたりする。『ホスト』の説明はこのぐらいで良いだろう。次は『リスナー』についてだ。 『リスナー』というのは、『ホスト』の話を聞く側の人たちのことだ。主にやれることと言えば例えばハッシュタグに何かコメントを残したり、スタンプを押したりして反応することが出来る。そして『リスナー』は『スピーカー』になることも出来る。 『スピーカー』は『ホスト』に喋ることを許された『リスナー』だ。『ホスト』と一緒に喋ることができる。まあ、『ホスト』と違くて自由にスペースに入って出ることができる。  もし『ホスト』が止めるとなったら『スペース』自体もやめることになってしまう。 まあ結論 ① ホストとはスペースを開く者で、そいつが止めるとなったらスペースが終わる ② リスナーはホストの話を聞く者 ③ スピーカーはホストに許可をもらって話すことを許された物  以上がスペースの説明である。まあ、スピーカーになるにはリクエスト送るとか共同ホストとか色々なものがあるがそれは今はどうでも良い。とにかく、俺は今、そのスペースのどうでも良い話をどうでも良い奴から聞いているのだ。 「ほんと、マジむかつくんだよな~。まじあれ。ほんまくそ」  おい、飲食店でそんな単語使うんじゃねえ。汚えだろうが。  何があったのか説明すると、この間、功太が開いたスペース内でそのゾロゾロアという奴がスピーカーに上がってきていきなり「貴方のギター。下手ですよね」と直球のコメントを言ったのだ。思わず俺と功太は吹き出して笑った。  初めは面白い奴が来た、と思ったがそいつはどこが下手くそなのか事細かに言ってきたのだ。  それで功太も段々キレ始めていた。初めは笑い混じりに返事をしたり、すみません、と冗談じみた返事をしていたが、徐々に怒気が含まれている返事をするようになった。  やばい、俺はそう思いながらそのゾロゾロアのコメントに返事をしていた。  功太の奴は一生懸命、怒りを抑えていた。もうそろそろ抑えることが出来なくなったんじゃあないか、と思った時に、そろそろ時間じゃね? みたいなことを功太に言ってその時は終わった。  そんなこんなで何とかそのスペースは終わらせたが、功太は腹の虫がまだ収まっていないようだ。だから今、こんなファミレスのチェーン店でそんな愚痴をこぼしている。 「てかさぁ、そのゾロゾロアって今もいるの?」 「分かんねえ」  そんなことを呟いて、功太はツイッターをいじっている。  この不満はまだ続きそうだな、なんて思っていると突然―― 「え!?」  功太は驚愕の声を放つ。思わず飛び上がるのではないかと思う程、驚いていた。 「なに、どうした」  俺が聞くと功太はスマホの画面を見せつけてきた。そこにはこう書かれていた。  問題が発生しました。 「問題が発生しましたって、これ……アカウント消したってことじゃねえか?」 「え……マジかよ……どうしよう、俺、やばいことしたかも」  ん? どういうことだ? アカウント消えたのがビックリしたのは分かるが、まずいことをしたかもっていうのは分からないぞ? 「どういうことだ?」  俺が聞くと功太は少し青ざめた顔をして答えた。 「いや……俺、このゾロゾロアの悪口をツイッターに書いちまってさ」  あ~、そんなことしちまったのか。  ツイッターの便利な所って言うのはほとんどが匿名状態で悪口言ってもあんまりバレないけれど分かる奴には分かる、そういうのが良いのに   ※これは個人の考えです  なるほど、本人だと確定して悪口をツイートしちまったか。 「あんまり良くないツイッターの使い方だな」 「そうなんだけどさぁ、問題はこっからなんだ」 「何だって?」  俺が聞くと、功太はもじもじと罰が悪そうな顔や態度をし始めた。  初めのふんぞり返っている姿とは全く逆の態度で、俺はおかしくなった。 「実はさ、そのゾロゾロアって結構、問題があった奴でさ、俺が悪口言ったらさ、雪崩のように同意のコメントが来たんだ。みんなそいつの悪口を言い合っててさ」 「まあな、お前の力を侮ったそいつにも問題があったんだろうな」 「まじかよ~、俺、一人退会するまで追い込んじまったのかよ~」  功太はテーブルに顔を伏せた。その姿がなんとも懺悔をしているようなポーズに見えて面白かった。 「あ~、まじで……あ~」 「そんなに思い悩むことか?」  俺の半笑いが気に障ったのか功太は「他人事だと思いやがって~」と恨めしそうに睨み付ける。それが更に笑いを誘ってくる。おれは耐えきれず吹き出してしまった。 「おい、そんなに笑うことないだろ」 「いや、悪い悪い。お前にもそんな人の心があったんだと思ってな」 「ほんっと他人事だから良いよな」 「いや、そうでもないさ。スペースの主として俺も責任感じているよ」 「お前はスピーカーだろうが」 「ははは、違いねえ」  功太は舌打ちをすると「少しトイレ行ってくる」と言ってスマホと共にトイレに行っていく。 「なるほど、本当に面白いな」  俺はスマホを握りながら、昨日のことを思い出した。 「やめろ、お前才能ねえよ」  そう言い放たれて、虎か何かのアイコンのスピーカーは何も言わない。 「いや、お前この前あいつに結構言っていたよね。なんかどこが悪いかとかさ、これで言えるの? そんな指示的なことをさぁ」 「でも……僕はそれで相手がもっと上手くなればもっとと思って……」 「あのさぁ、それ許されるのって一定数の実力ある人たちよ? それがさぁ、お前程度の実力でそれが出来ると思ってんの? 君はまず基礎が全く出来ていない。もう一回、初めっからやりなおせ。てか、お前はまず恥を知れ。そして己の立場を知れ」  まさか、あの程度言われたくらいで止めるとは思わなかったなぁ。  まあ、功太にも良い薬になったし、これはこれで良いかな。  そんなことを思いながら、トイレから暗い顔をして帰ってきた功太を見ていた。
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