時の雫

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慣れた手順で 開店準備をする 流行りに流されない 手頃な値段の下着や 衣料品を扱うこの店は 今でこそ 廃れてしまっているが 私の子供の頃は 平日でもかなり賑やかで 土日ともなれば 店内はてんてこまいだったろう 『おはよう』 『いらっしゃいませ』 毎日のように 顔を出す常連の山田さん 定年退職後の暇潰し場所って とこかな まぁ誰も来ないよりはまし だけど 今日はいつもより 少し早めの来店 それに 何か言いたげそうな雰囲気で… 『どうしました?』 『いや…君に頼み事があるんだが…』 部下にモノを頼む上司のように いつもながらの上から目線で…… それでも続く言葉を待ってみた 『家内の下着を見繕ってくれないか?』 あぁ… ずっと躊躇ってたのは それだったんだ 詳しいことを 聞かなくてもわかる そんな世の中になったんだよな 『はい、喜んで』 いつもの営業用でなく 心からの笑顔が自然にでた そうか… 私にも まだまだ出来ることがあるんだな そう思ったら 時間が少しだけゆっくりになった * おわり *
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