2章

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山と空の境界線がほんのり赤くなり始めた頃、いい具合にお肉も焼けてきた。 ただ、 「豚肉はしっかり火を入れないとお腹を壊すから、十分すぎる位焼いた方が良いわよ」 という母親のアドバイスを守って、入念に焼いたのと、家と違って火の調整が難しいのが災いして、予定よりも肉が焦げてしまっていた。 斎藤に見つからない様に所々焦げているのをなんとかはがそうと頑張っていたが、 「そういうのもキャンプ飯の醍醐味なんじゃないか」 と斎藤が言ってくれたので、言葉に甘えてそのままにすることにした。不慣れな手つきで肉を骨に沿って切り分けると、一番綺麗にできた部位を斎藤の皿に乗せ、自分の皿にはコゲの多い物をその部分が斎藤から見えない様に気を付けながらこっそり乗せる。 準備を整えて斎藤の横に座ると、お互いに いただきますと言って手を合わせた。斎藤は素手で肉を持ち上げ、ワイルドにかぶりつく。一口、二口。無言で食べ進めていく斎藤。口に合わないけど、無理して食べてくれるのだろうかと不安になって見つめていると、視線に気が付いたのか、 「ごめん。あまりに美味しくて夢中だった。もう一つ食べても良い?」 油でテカった指をペーパータオルで拭きながら、照れ臭そうに斎藤が言ってきた。 「やった。もちろんです。全部食べても良いですよ。あ、ご飯もスープもまだまだありますし、ドンドン食べて下さい」 美味しいと言って貰えたことにホッとすると、それまで忘れていた空腹感が一気に襲ってきた。 お腹が鳴る前に食べちゃお。 食べようと思った矢先、横からスッと手が伸びてきて祐介の皿にあったコゲ付き肉をさらっていく。 「あ、それは」 祐介が止めようとするよりも早く、斎藤は自分の皿にコゲコゲの肉を置くと、 「君の分はこっち」 と、焼け過ぎない様に端に寄せていた肉を祐介の皿に乗せた。 唖然としている祐介を尻目に、斎藤は自分の皿に乗せた祐介の失敗作 コゲすぎ肉を口に含むと 「うん。こういうのもキャンプ飯って感じで雰囲気あって良いよ。美味しい」 嫌な顔どころか、目じりを下げてニッと笑う顔は、今日の中で一番くだけて魅力的な笑顔だった。
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